「パンがなければお菓子を…」マリー・アントワネットのグルメ嗜好は元祖ナチュラル系女子

文芸・カルチャー

2019/9/1

『マリー・アントワネットは何を食べていたのか ヴェルサイユの食卓と生活』(ピエール=イヴ・ボルペール:著、ダコスタ吉村花子:訳/原書房)

「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」――フランスの王妃であり、革命でギロチンにかけられたマリー・アントワネット。歴史に詳しくない者にとってもその名は“贅沢家”として有名だろう。本当に彼女は高級食材に毎日舌つづみを打っていたのだろうか。『マリー・アントワネットは何を食べていたのか』(ピエール=イヴ・ボルペール:著、ダコスタ吉村花子:訳/原書房)は、歴史家である著者が、王妃の食生活を丹念に研究して、それを一般読者向けにわかりやすく紹介する1冊。気になる王妃の食生活を早速見てみよう。

■フランス王家の当時の食事を再現してみると――

 オーストリアからフランスに嫁いできたマリー・アントワネット。勉強嫌いで楽しいことが大好きだった15歳の少女は、新しくフランス王家のしきたりを覚えなくてはならない。頭からつま先まで、フランス流に染め直すのだ。無論それは食事もだ。

 当時のフランス王宮で王侯貴族はどんなものを食べていたのだろうか。“普段の夕食”の一例を挙げてみよう。まずは、ポタージュ(当時のポタージュはスープより煮込み料理に近いそう)で幕を開ける。続いて、ロースト肉、アントルメ、オードヴル、サラダと進み、最後にデザートで終わる。

 食材には、ノルマンディー産雌鶏、子ウサギ、猟肉、ルーアン産仔牛、ヤマウズラのブイヨン、若鶏、七面鳥、フィレ、鳩肉、フォアグラ、キャベツ、ほうれん草、アーティチョーク、ミニパイ、チョコレートなどを使用。

 肉が多くて味付けも濃く、こってり。さすがに、王と王妃だけでは食べきれない量なので、残されたものは臣下の食事となる。

■元祖ナチュラル系? マリー・アントワネットの意外な素顔

 一方、王妃の育ったオーストリアのハプスブルク家では、晩餐会以外は、簡素で家庭的な食事だった。自然豊かなシェーンブルン宮殿で「ナチュラル」嗜好が培われた彼女は、ソースのかかった赤身肉や香辛料のきいた料理は苦手で、フルーツが大好き。こんな彼女の好みは生涯変わることはなく、フランスでの食事はどうやら苦痛だったようだ。

 というのもその証拠に、食事にはほとんど手をつけず、食事外に食べる軽食を楽しんでいたことが宮廷内の記録に多く残っている。果物の他には、生クリームなどの乳製品やイチゴの氷菓がお好みで、料理人に頻繁に作らせている。食材の産地にもこだわるという「ナチュラル」嗜好で、信頼できる農園産の新鮮な食材に限られていたそうだ。

 また、王妃自らが催した親しい人だけを集めての晩餐会のメニューは次のようなものだ(正式な記録が残っていないので彼女の友人たちの日記からの推測だが)。ヤマウズラ、古代スパルタ人が食していた質素なスープ、イチジク、チーズ、いくつかの野菜と果物、はちみつのお菓子。日記によると、どれも慎ましく食卓に並べられ、豪華絢爛とは程遠かったとか。

 ここまで見ると、“浪費家”マリー・アントワネットのイメージがかなり変わるのではないだろうか。実際、冒頭に挙げた「パンがなければ…」の一文は、本当に彼女が言った言葉ではない。では真実の王妃は質素に暮らしていたのに悪人にされた悲劇の人だったの? …と同情心が湧いてきそうだが、いやいや、そうではない。「ナチュラル」好きだが、質素ではない、というところがミソなのだ。

 特に、彼女が過ごしたプティ・トリアノンの存在は、彼女の趣味の良さと“滑稽さ”を表す象徴だろう。これは王妃専用の宮殿なのだが、宮殿には見えないよう田舎の小さな農家であるかのような外装になっており、周囲には小さな農場と造園された村里が徒歩で簡単に見回れるほどの距離に配置されている。「王妃のおもちゃ」「隠れ家」とも呼ばれ、彼女はここで手も服も汚れない田舎「風」の生活を楽しんだ。ここには彼女の親しい者だけが招待され、今までのフランスにあった富の見せ方とは逆の、洗練された「ナチュラル」の発信源となった。

 しかし、打ち明けておくと、この建築費は現在の価値で20億円ほど。維持費もかかる。「ナチュラルライフ」には大金が必要だったのだ。

 ところ変わって現代社会でも、「ナチュラル」は地球に優しくお洒落なイメージのライフスタイルだ。そうはいっても、オーガニック食品や天然素材の服はどれも高い! そう感じている人は多いだろう。ナチュラル系のお店はお洒落な都心にしかないじゃないか!――と、近所の激安スーパーのお買い得品を品定めしながら拗ねてみる。

文=奥みんす