都内某所、エリートサイコパスが集う会員制秘密クラブで起きたある事件とは――

文芸・カルチャー

2019/9/3

『キリングクラブ』(石川智健/幻冬舎)

 猟奇的な描写が読み手の好奇心をくすぐるミステリー小説は、数多く存在する。だが、『キリングクラブ』(石川智健/幻冬舎)ほど、“人間の闇”を美しく描いている作品には、これまで出会ったことがない。本作は単なるミステリー小説の枠に収まりきらないほど、強烈なインパクトを与えるものだ。

■サイコパスが集う秘密クラブに潜入、その中には――

 主人公はフリーライター兼パパラッチをしている、佳山藍子。藍子はある日、友人から東京都内にある会員制の秘密クラブ「キリングクラブ」で、時給2万円の給仕のアルバイトが募集されていることを聞く。

 好奇心旺盛な藍子は高額な時給にも惹かれるところがあり、早速「キリングクラブ」で働くことに。任された仕事は至って簡単でゲストに飲み物を運ぶ程度のものだったが、藍子はその場所には金と危険のすえた臭いが漂っていることに気づく。それもそのはず。実は「キリングクラブ」は、社会的に成功したエリートサイコパスが集う“楽園”だったのだ。

 物語は「キリングクラブ」に通っていた会員の青柳が生きたまま開頭され、扁桃体を抜き取られたことを機に、さらに怪しげな方向に転がっていく。

“扁桃体は感情を掌る部位だ。それを選んで切除したということは青柳がサイコパスだと知っていた可能性がある。”

 藍子は、事件をそのように分析する「キリングクラブ」のトラブル対処要員で刑事でもある辻町と一緒に、犯人捜しをすることに…。

 しかし、事件はそれだけでは終わらず、同じように開頭され、扁桃体が抜き取られた第2、第3の殺人が発生する。藍子と辻町は、猟奇的な連続殺人に巻き込まれ、背景に隠された驚愕の真実を知ることになるのだが…。

 こう流れを記すと、本作はサイコパスを追い詰めるミステリー小説なのだと考える方も多いだろう。だが、本当の凄みはもっと深いところにある。主人公である藍子を含め、登場人物全員が、常人とは違うダークな価値観や闇を抱えているからだ。

 なぜ犯人は扁桃体という部位にこだわり、殺人を重ねていったのか。その理由が判明する時、読み手のあなたは“人の感情”について今までよりもっと深く考えるようになるはずだ。

■綺麗事は一切抜き、サイコ的思考にしびれる!

 正義と悪がぶつかり合い、善人が勝利する――そんなストーリー展開には飽きたという人の心に、本作の残酷で美しい文章は響くだろう。作中で描かれている「キリングクラブ」に集う会員たちは、サイコパスの中でもごくわずかのエリートサイコパスであり、金と権力にしか興味を示さない。その常軌を逸した思考に読者は驚き、同時にどこかワクワクさせられてしまうのだ。

 他人を蛆虫呼ばわりする会社経営者、法廷を遊び場だと考える弁護士、患者を自分の作品だと思っている脳外科医など、登場人物たちはみな歪んだ価値観を持っている。しかし、彼らは常人離れしているが、個性的である分、人間味も感じられる。

 サイコパスである彼らは、自分たちのことをこうも語る。

“サイコパスは、高性能の最高級スポーツカーのようなものだと言われていた。そして、このスポーツカーを上手く運転できる精神の持ち主かどうかが、成功者と“危険地帯”との分かれ道なのだ。”

 この言葉を目にすると、天才と狂人はまさに紙一重なのだと思えてならない。

「キリングクラブ」は犯罪の香りが立ち込める危うい場所だ。だが、会員たちにとっては世界にたったひとつの楽園でもある。

“人生がつまらなかった。いっそのこと、火の中に飛び込みたいという衝動を強く抱いていた。ただ、ここに来て、ようやく猿山の中で人と出会えたような、そんな安堵を覚えた。捕食対象ではなく、友人と呼べるものを初めて得ることができた。”

“理解者がいることが、殺人衝動を抑えるもっとも有効的な手段だった。”

 本作はミステリー小説というフィクションであるが、「人殺し(キリング)をしないために、大儲け(キリング)をしている」というエリートサイコパスたちの心の脆さも描いている。それを知ると、サイコパスの抱える秘密や苦しみにも思いを馳せたくなってしまうから不思議だ。

文=古川諭香