「今月のプラチナ本」は、伊藤朱里『きみはだれかのどうでもいい人』

今月のプラチナ本

2019/12/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『きみはだれかのどうでもいい人』

●あらすじ●

県税事務所に勤める、年齢も立場も異なる女性たち。同期が休職したことで、納税担当に異動させられた若手職員・中沢環。納税担当から病休を経て総務担当として働く染川裕未。週に一度の娘との電話を心の支えに、毎日の業務や人間関係もこなすベテランパート・田邊陽子。お局様と名高い、総務担当の筆頭主任・堀。4人の目に映る景色をそれぞれの視点で描く連作短編集。見ている景色は同じようで違っていて――。

いとう・あかり●1986年、静岡県生まれ。2015年、「変わらざる喜び」で第31回太宰治賞を受賞し、同作を改題した『名前も呼べない』でデビュー。他の著書には『稽古とプラリネ』、『緑の花と赤い芝生』がある。

『きみはだれかのどうでもいい人』書影

伊藤朱里
小学館 1700円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

忘れる? 許す? 祈る?

〝どうでもいい〟という言葉は、フラットな〝関心がない〟ではなく、否定的なニュアンスを強く帯びている。対象への怒りがあり、でもそれを口に出しても仕方ないから黙っている、という無力感。一見平穏な職場に〝どうでもいい〟の苛立ちが降り積もる。「全然納得できない言葉がどんどん体に溜まって、自分が本当はどう感じているのかもわからなくなって、だから全部自分のせいにするか、全部人のせいにするか、どっちかしかなかった」。他に選択肢は? 問いかけが重く胸に残る一冊。

関口靖彦 本誌編集長。一年を締めくくる「BOOK OF THE YEAR」特集を通して、新たな〝お気に入りの一冊〟を見つけてください!

 

ぐるっと四方から見まわしてみる

仕事ができると自負する中沢さんに、休職から復帰した染川さん、お局様の堀さんに女子会の中心人物である田邊さん、そしてペースが独特な新しいバイトの須藤さん。各々の立場から見る職場の風景は、同じものを見ているようでまったく違う。彼女たちの視点を重ねていくと、人間関係が立体となって浮かび上がる。いろんな角度から見まわすことの面白さを強く感じる作品だった。こういった人間関係は大なり小なりあるものだけど、気になってしまう人は大変だろうなぁ、としみじみ。

鎌野静華 先日なぜか和菓子の練りきりが猛烈に食べたくなって和菓子屋を探し回ってしまった。結構早い時間で売り切れてしまうんですね、練りきりって。

 

あの人が放つ赤信号

県税事務所で働く女性たちが一編ごとに語り手を務める連作短編。担当業務やキャリア、年齢の異なる主観が、徹底的に明らかにされてゆく。一つの何気ない言葉だってその捉え方がまるで異なるのだ、という実感の先に本作はあり、ページを繰るたび腹が据わってくる感覚が面白い。スターバックスのタンブラー片手に出勤することも、細いストローでミルミルを吸うことも「あたしには、どれも真似できない」。しかし全てを「どうでもいい」と割り切ってしまうこともまた、できなくて良い。

川戸崇央 本書と同時期に『ドライブイン探訪』(橋本倫史)を再読。徹底した取材で客観的事実を積み重ねる、その原点にあるのもまた橋本さんの主観的な熱だ。

 

ラクになるか、それとも絶望するのか

作品から溢れ出るパワーの強さに、クラクラした。次々と登場人物から発せられるセリフと心の声は、忖度なしの鋭利な言葉たちだ。斬りあい・殴り合いをしているような「生きるってさあ、こういうことでしょ?」の会話の応酬に、「うるさい」と叫びたくなる。傷つき心が折れたことがあるが(相手に対し「絶対許さない」と呪っているので本書を読んでたじろぐ)、自分を守るのは自分だ。しかし「きみ(自分)はだれかのどうでもいい人」と思ったら人生はラクになるのか? 絶望するのか。

村井有紀子 ドラクエウォークとPRODUCE 101にハマり、毎日歩き毎日推しに投票。早くも年末……2020年絶対わたし幸せになる(言霊)。

 

みんな等しくひとりぼっち

タイトルに痺れる。そうですよね。誰もがのっぴきならない何かを抱えているけど、それは他人から見えない。それどころか、割とどうでもいいことである。そんな原理を本作は容赦なく見せてくれる。登場人物に悪人は一人もいない。しかしどこまでもわかりあえず、傷ついたり傷つけたり。いっそ独りで生きていけたら楽なのか。「そこにあるのは、絶望か、希望か」と帯にある。どちらだろう。どちらでもあるかもしれない。いずれにせよ、私達は「そこ」で生きていくしかないのだ。

西條弓子 今年は本厄&大殺界だったのですが、どっこい生きてる。と思ったら、大殺界の期間はまだもうちょっとあるらしい。逃げ切れるか……!?

 

どこにでもある、彼女だけの話

ストレスばかりの仕事、ぎすぎすした職場、愚痴を言える相手もいない。もっとつらい人はいっぱいいると自分に言い聞かせて、あるいはあの人よりはまし、と密かに比べて安心して、毎日を生き抜いく女性4人の連作短編集。その緊張感は読んでいて息苦しくなるほどリアルで、都合のいい解決策など提示されないシビアさが、すがすがしいほどだ。「目の前の相手が自分の大切な人だったら」。そんな想像力を持てる余裕があればと願いながら、彼女たち一人ひとりの闘いは続いていく。

三村遼子 BOTYで書店さんのいちおし本コーナーを担当。どのお店も選書と居心地のよさにこだわりがつまっていて、うちの近所にオープンしてほしい!

 

同僚という社会の闇

社会に出れば、仕事の時間が人生の大半を占めることになるのは当然だけれども、比例して同僚と過ごす時間も長くなる。しかし家族でも友人でもない関係性は緊張感をはらみ、ある種の特別な気遣いが必要。それを同じ職場のそれぞれの立場で描く本書は、攻撃力が高すぎる! 実生活で味わう以上の精神摩耗を感じるが、ミナの金言〈あんたに認められなくたって、わたしはこの人生でやってくんだよ〉が最高に皮肉が効いてて爽快ですらある。人生、少しくらい自分勝手なほうが生きやすい。

有田奈央 朝10時にコンビニの端末に並び、両手にスマホ。それでも行きたい舞台のチケットが取れない! 2019年を乗り切る燃料だったのに……。

 

わかりあうことなんて、できない

他人のことなんてどうでもいい、そう思えたらいいのにと常々思う。4人の女性たちの視点で描かれる同じようで異なる景色は、人間関係における本質を突き付けてくる。わかりあうことは難しい、そんな当たり前のことに改めて気づかされる。〝気にしい〟な私にとっては、その当たり前のことがひどく恐ろしいと感じるし、一方でそう割り切ってしまいたい、他人のことを気にせず生きてみたいとも思う。人間関係に悩み、息苦しくなったときにこそ、本書のタイトルを思い出したい。

前田 萌 高尾山に登ってきました。(途中までリフトでしたが…)リフトの登りはいいけれど、下りが怖い! 感覚的には〝落ちる〟ような…。そして寒かった。

 

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