新たな恐怖絵本が誕生! 有栖川有栖が初めて手がけた絵本『おろしてください』がコワおもしろい

文芸・カルチャー

2020/1/17

『おろしてください』(有栖川有栖:作、市川友章:絵、東雅夫:編/岩崎書店)

「臨床犯罪学者・火村英生」シリーズなどで絶大な人気を誇るミステリー作家・有栖川有栖が文章を手がけた絵本、『おろしてください』(市川友章:絵、東雅夫:編/岩崎書店)が、「怪談えほん」シリーズの1冊として刊行された。

「怪談えほん」とは、その名のとおり怖い話、不気味な話に特化したユニークな絵本シリーズ。宮部みゆき、京極夏彦、小野不由美など豪華作家陣が参加していることで知られ、1作ごとに注目を集める“怖い絵本”ブームの火付け役となった大人気シリーズだ。

 本格ミステリーの第一人者である有栖川有栖が、気鋭のアーティスト・市川友章とタッグを組んだ『おろしてください』は、同シリーズ3期の第2弾として刊行された作品。奇妙な電車に乗りこんだ男の子の目を通して、シリーズ既刊10冊のいずれとも異なる、恐怖と幻想の世界を作りあげている。

 あらすじを紹介しよう。裏山を探検していた主人公の「ぼく」。いつしか道に迷ってしまった彼は、小さな駅へとたどり着いた。瓦屋根がレトロな雰囲気を醸し出す、いかにもローカル線らしい駅だ。町に戻ろうと、やってきた列車に乗りこむ彼。しかしトンネルを抜けたところで、恐ろしいことに気がついた。

 彼以外の乗客は、みんな人間ではなかったのだ! 角が生えているもの、うろこのあるもの、目が飛び出しているもの、床を這いまわるもの、天井にはりつくもの。彼は目立たないように身を潜めていたが、とうとう人間であることが車掌や乗客にばれてしまう…。

 大人になると忘れがちだが、小学生くらいまでの子供にとって“迷子になること”“家に帰れなくなること”はとてつもない恐怖だった。知らない土地を探検する楽しさも、家に帰れるという保証があってこそ。町に戻るつもりで乗った列車で、どんどん得体の知れない世界に連れ去られてしまう、という『おろしてください』のシチュエーションは、「ぼく」と同世代の子供たちにとって、悪夢そのものだろう。これは怖い。ゾクゾクする。

 物語の主な舞台が列車であるというのも、本作の大きな特徴だ。降りたくても降りられない、逃げ出そうにも逃げ場がない。そんな動く閉鎖空間を舞台にしたことで、「ぼく」の体験談はさらに恐ろしく、サスペンスフルなものになった。有栖川有栖といえば鉄道ファンとしても知られる作家だが、『おろしてください』はそんな彼が鉄道にまつわるネガティブな妄想を膨らませ、巧みに物語に取り入れた本格“鉄道怪談”でもあるのだ。

 文章と並んで、本作を語るうえで欠かせないのが市川友章の絵である。どこか昭和レトロを感じさせるタッチと色使いで、見慣れた日常が少しずつ変化してゆく過程を、鮮やかに表現している。「ぼく」の淋しさや心細さを反映するような、大胆な構図も効果的だ。

 そしてインパクト絶大なのは、バラエティに富んだ化け物たちの姿。貝殻を組み合わせたような顔の女性、魚の顔をした男性…。身近なものを組み合わせてできている異形たちは、生々しく不気味でユーモラス。「ウルトラQ」や「仮面ライダー」など往年の特撮テレビ番組の怪獣・怪人を連想させるキャラクター造型は、“少年の目に映った異世界”を見事にビジュアル化している。

 主人公の「ぼく」は、やってきた車掌のアドバイスによって、もとの世界に戻る方法を知る。果たして彼は人間の住む世界へ戻ることができるのか。主人公になった気持ちで、ぜひとも衝撃の結末を見届けてほしい。

『おろしてください』という不穏なタイトルをもつ本書は、この先ずっと書店や図書館の棚で、子供たちを戦慄させ続けることになるだろう。怪談好き、絵本好きとして、新たなトラウマ級作品が生まれたことを祝福したい。

文=朝宮運河