ヨシタケシンスケさん「大人がいうことばかりが全てじゃない」――MOE絵本屋さん大賞2019に、かこさとしさんの遺作も

文芸・カルチャー

2020/2/4

 子どもから大人まで広く人気を集める「絵本」の世界。毎年たくさんの新刊絵本が登場しますが、その中からベスト30を決定する恒例の年間絵本ランキング「第12回 MOE絵本屋さん大賞2019」(協力:朝日新聞東京本社メディアビジネス局)がいよいよ発表されました。絵本月刊誌『MOE』(白泉社)が主催するこのランキングは、全国3000人の絵本専門店・書店の児童書売り場担当者にアンケートを実施して新刊絵本30冊をセレクト。プロの目利きが選んだ2019年のベスト絵本とはどんな顔ぶれなのでしょう。先日、東京都内で開催された贈賞式の模様とともに、受賞者の喜びの声をお届けします。

************

『MOE』編集長の門野 隆さんの挨拶から贈賞式はスタート。続いて「MOE絵本屋さん大賞」の受賞作品が発表され、白泉社の菅原弘文代表取締役社長がお祝いの言葉をおくりました。

〈月刊『MOE』門野 隆編集長のご挨拶〉
「今年も絵本屋さん、書店員の皆様に素晴らしい作品を紹介していただきました。我々が『MOE』を編集する上でも、さらに読者の方々にとっても良き道しるべとなり、とても感謝しています。今年も素晴らしい絵本が揃いました。こうきたか! という新しい顔ぶれも多く、絵本の世界も移り変わっています」

〈白泉社 菅原弘文代表取締役社長の祝辞〉
「私は子どもの頃、本の扉をめくる瞬間が好きでした。そこから知らない世界で冒険をするのが好きでした。〈その先に何があるのか〉を想像するのが密かな楽しみだったのです。今でも無人島に持って行くなら絵本をぜひと思っています」

 続いて受賞作家さんにクリスタル楯が贈呈され、それぞれが個性豊かなスピーチで喜びと感謝を伝えました。

■第1位 『なまえのないねこ』(竹下文子:文、町田尚子:絵/小峰書店)

 靴屋さんのねこは、レオ。本屋さんのねこは、げんた。他のねこには名前があるのに、僕は名前をつけてもらったことがない。名前がほしい「ねこ」は街をぐるぐる回ります。本当に欲しかったものは、名前じゃなくて…。美しい絵も印象的な心がホッと温かくなる一冊。

「生まれて初めて手にした絵本はただの紙ではなく、私に世界を教えてくれるものでした。40年以上この仕事をしていますが、それからずっと『世界を作ろう』と思って作っています。この本は、私の関わった本というより〈ねこ〉だと思うんですね。だから家の近所の本屋さんでこの本を見つけたときは、「あ、いた!」と思ってこっそり帰りました。そんな〈ねこ〉をたくさんの優しい人に持ち帰ってもらえるとすごく嬉しいですね」(竹下文子)

「子どもが両親とこの本を読んだとき、きっと『メロンちゃんよかったね』と言うと思います。そうしたら、もし自分の子が猫を連れて帰ってきたときにすぐに『捨ててきなさい』とは言えなくて、猫の家族を探すとか何かすると思うんです。この本が猫を拾ってきてしまう優しい子どもたちや、出会いを待っているたくさんの猫たちに届くといいな、と思っています」(町田尚子)

■第2位 『ころべばいいのに』(ヨシタケシンスケ:作/ブロンズ新社)

 私の嫌いなあの人この人、みんなつまずいてころべばいいのに…子どもだけでなく、大人だって持ってしまうこんなイヤ〜な気分をどうすればいい? 「嫌い」をあれこれ考察したヨシタケ流撃退法なら、きっと前向きになれる!

「嫌いな人っているよね、それを考えるといやな気持ちになるよね、というのに共感が欲しかったんですが、これが非常に言い方が難しくて。以前、読んだ本に『やらなきゃいけないことが達成できなかったときは、自分の嫌いな存在が得すると思おう』というのがあって、そういうモチベーションの持ち方はいいなと思ったんですね。それをいつか大人向けに書くつもりだったんですが、そんなテーマは実は子どもにも必要だろうと思って、今回はそうした『方法論』の話にすることに落ち着きました」(ヨシタケシンスケ

■第3位 『たべものやさん しりとりたいかい かいさいします』(シゲタサヤカ:作/白泉社)

「しりとり大会」の優勝を目指して、商店街のおすし屋さんや八百屋さん、いろんなお店の食べ物たちが大はりきり。でも「ん」のつく食べ物は参加できずに、あるお店が大ピンチ!? 可愛い食べ物たちが次々に登場して、小さなお子さんでも楽しめる一冊。

「絵本作家になって10年目の記念すべき年にこのような賞をいただき、すごく嬉しいです。実はデビュー作(『まないたにりょうりをあげないこと』)でこの賞の新人賞3位をいただいていて、名もない作家の本でも書店員さんがしっかり読んで評価してくださったことが、励みになりました」(シゲタサヤカ)

■第4位 『それしか ないわけない でしょう』(ヨシタケシンスケ:作/白泉社)

 大人になったら未来に待っているのは大変なことばかり、ってお兄ちゃんは言うけれど、それって本当? おばあちゃんに相談したら、なんかそうでもないみたい。っていうか、それしかないわけないでしょう? 考え方一つで、きっと新しい未来が見えてくる。

「以前、別の仕事で『将来、老人ばかりになって子どもたちが大変なことになることを、お父さんお母さんにきちんと伝えたい。それを面白くしてほしい』と依頼されたことがあったのですが、僕は怖がらせるだけのことをやりたくなくて。予測と未来は別のもので、怖いデータはあるけれど、あなたと関係あるのかはわからないし、自分の未来の選択肢はたくさんあって、むしろ自分で付け加えてもいい。大人が言うことばかりが全てじゃないということを伝えられればという思いで作りました」(ヨシタケシンスケ

■第5位 『へいわとせんそう』(たにかわしゅんたろう:文、Noritake:絵/ブロンズ新社)

「へいわのボク」と「せんそうのボク」では、どんな違いがあるのだろうか。同じ人、同じもの、同じ場所、並べてみると見えてくる「へいわ」と「せんそう」の違い。シンプルな絵でわかりやすく、そんな二つの現実が実は紙一重だというのを教えてくれる。

「普段は広告の仕事をしていますが、いつも子どもが見ても不快にならないことを意識して描いています。2年前にこの本の話をいただいたときもその考え方で、谷川さんの文章にちゃんと絵を描けば完成すると考えていましたが、実際には谷川さんと編集者さん、デザイナーさんの4人で何度もやりとりをして、ページや言葉もどんどん変わっていきました。『戦争はダメ』とかいうのではなく、『ちゃんと伝えよう』という気持ちで描いた本です」(Noritake)

■第6位 『みずとは なんじゃ?』(かこさとし:作、鈴木まもる:絵/小峰書店)

 幼い三兄弟の暮らしから水の性質とその働きを楽しく学べる、絵本界のレジェンド・かこさとしさんの遺作となる一作。読者の目の高さに合わせ、順を追って大切なことを教えてくれる展開は、幼い科学の心を豊かに育むことだろう。

「この本には病床で校正を続けたかこの、子どもさんや地球環境への強い思いが詰まっています。多くの方に読んでいただけるように願っています」(かこさとしさんの長女・万里さんの手紙/代読)

「出版社から『かこ先生の絵を描いてほしい』と電話があったとき、当初は今の仕事が終わってから、ということで一旦電話を切りました。でも、雲の上の存在だった大好きなかこ先生にお会いできると思い直して、すぐに電話をかけ直しました。お会いしたとき、何度も手をさすりながら『お願いします』と先生から言われた感触は今でも覚えています。何度かダミーを作り直して最終的なゴーサインをお待ちしていましたが、残念ながらお亡くなりになってしまい、めげずにひたすら描きました。自然にかこ先生のキャラクターも登場させていましたが、『面白い! その調子で描きなさいね』と先生が言ってくれているようでした」(鈴木まもる)

■第7位 『Michi』(Junaida:作/福音館書店)

 いつともどこともしれない、美しく不思議な世界をつなぐ白い道。本の表と裏の両面から、それぞれ男の子と女の子が歩いて行きます。絵本の中に自分が入り込んでしまうかのような感覚が味わえる、不思議感覚の絵本。

「この本は言葉もなく、表からも裏からも読めるという変わったものなので、読者に歩み寄ってもらわないと楽しんでもらえません。そんな本なのに、まず書店員さんが反応して読者に届けてくださったことが本当にありがたかったです」(Junaida)

■第8位 『ねえさんといもうと』(シャーロット・ゾロトウ:文、酒井駒子:絵・訳/あすなろ書房)

 何から何まで世話をしてくれる優しいお姉さんに、頼りきりだった妹。けれど、ある日変化が芽生え…温もりある繊細な筆致で姉妹の心を生き生きと描いた一冊は、懐かしいようでなんだか新しい。

「元は1966年に出版された絵本です。同じ年に生まれた私はすっかりおばあさんになりましたが、ゾロトウの本は色褪せない。選んでくださる方がいたことに、すごく励まされました」(酒井駒子/代読)

■第9位 『ねこのずかん』(大森裕子:作、今泉忠明:監修/白泉社)

 クルンと丸くなったり、尻尾をブワッと膨らませたり、くっつきあって「猫だんご」になったり、「ごめん寝」したり…知ってたような知らなかったような猫の生態にいろいろ出会える絵本図鑑。「猫語」も学べます!

「ずっと猫を描くのが苦手だったんですが、実は『猫とはこういうものだ』と決めつけて見ていたからだったのかもと思うようになりました。猫は飼い主のことを『ダメな大きな猫』だと思っているそうです。『誰だってダメな大きな猫なんだー』と思ったら、なんとなく世界が面白くなって軽やかになりました」(大森裕子)

■第10位およびパパママ賞第1位
『ノラネコぐんだん おばけのやま』(工藤ノリコ:作/白泉社)

 美味しそう〜! おだんご屋さんに無断侵入したノラネコぐんだんは、ちゃっかりみんなでお団子を作り、いざ食べようとしたら謎の突風。全部持っていかれたお団子を探すノラネコぐんだんの未来はいかに!? おかしくて美味しい、ノラネコぐんだんの定番の味をどうぞ。

「前作は小さいときからのファンのお子さんが小学生になる頃というのもあって、画面を分割するなど少し込み入ったものにしましたが、今回は1歳や2歳のお子さんが楽しめるように、単純だけど骨太な物語で、大きな絵で見せるなど工夫しました。こうした挑戦が毎回できるのも、小さな読者と繋いでくださる書店の皆さんのおかげです」(工藤ノリコ)

■新人賞第1位『むれ』(ひろたあきら:作/KADOKAWA)

 ひつじのむれ、さかなのむれ、とうめいにんげんのむれ…びっしり描かれたむれの中に、仲間はずれは見つかる? ひと味違った探し絵遊びを楽しみながら、「みんなと違う」とはどういうことなのか、思わず考えてしまう一冊。帯はピース又吉。

「帯の方が価値のある本かもしれませんが本当に嬉しいです。僕は売れない若手芸人ですが、命がけで大好きな絵本を300冊くらい集めて、絵本の読み聞かせやイベントもしています。これからも絵本界を盛り上げられるように頑張りたいです!」(ひろたあきら)

 贈賞式の終わりには上位入賞作に対するレビューの中からMOE編集部が選んだ「ベストレビュアー賞」への楯の贈呈も行われ、受賞した書店員さんたちが全国から来場して喜びをコメント。そして絵本愛に溢れた贈賞式は幕となりました。

取材・文=荒井理恵