ちびまる子ちゃんとコジコジが夢の共演! ゆったりと流れる子どもらしい時間を守りたい『絵本 まるコジ』

文芸・カルチャー

更新日:2020/3/31

『絵本 まるコジ 1 ちびまる子ちゃんとコジコジのぼうけん』(さくらももこ/集英社)

さくらももこさんの世界観が絵本になった

 まんが家、さくらももこさんの代表作“ちびまる子ちゃん”と“コジコジ”が夢の共演。まんがを読む以前の幼児のために絵と文を書いた『絵本 まるコジ』全4巻が、集英社から刊行されている。まんがやアニメでは大人びた発言をするまる子とコジコジだが、この絵本では自由で穏やかな子どもらしさが強調され、やさしい世界観が広がっている。パステルや色えんぴつの筆跡を残しながらページいっぱいに描かれたイラストは一点一点がアートそのもの。ほのぼのとした文章とともに、うっとりするようなファンタジーの世界へといざなってくれる。

まるちゃんやコジコジといっしょに夢を見よう

 物語は、メルヘンの世界から地球にやってきたコジコジに、まるちゃんが「いっしょにあそぼう」と声をかけるところから始まる。いっしょに眠った2人は同じ夢を見て、さまざまな冒険をすることに。各巻には、四季折々の行事や花、昆虫などをテーマにした6つのストーリーが収められ、中でも子どもの夢や願いを叶えるようなエピソードが印象に残った。

 1巻に収められた「5月 ハーモニカを ふこう のまき」は、怖くてまだ空を泳げない子どもの鯉のぼりを、コジコジがまるちゃんにもらったハーモニカで助けるお話。ハーモニカの音色にあわせてスイスイと泳ぐ子どもの鯉のぼりは、「空を飛んでみたい」と願う子どもたちの憧れの象徴のようにも映る。七夕に織姫と彦星を引きあわせるエピソードや、十五夜に月からウサギがやってくるお話でも、子どもたちの夢を叶えて喜びを与えてくれる。今は語られることが少なくなった日本の原風景を、子どもたちにわかりやすく伝えられるのも魅力だ。
 

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「虹」や「お手紙」など子どもの気になる“ふしぎ”や“ちょっと知りたい”出来事をテーマにしたものも多い。それらの事柄を説明する知育的コラムもついているため、「7色の虹の上にのぼったら何があるだろうね」「手紙ってどんなときに出したらいいの?」と親子の間に自然な会話が生まれる。まるちゃんやコジコジとともに夢を見て、身の回りのふしぎを知った子どもたちの心は大きく育ち、どこまでも高く飛んでいきそうだ。

目には見えない大切なものがたくさんある

 3巻に掲載された「5月 手紙を読んで 大ぼうけん のまき」は、差出人のない手紙を受け取ったコジコジが楽しそうに冒険をするお話。手紙に書かれた通りにお花や野いちごを集め、到着したのはまるちゃんの家。手紙を送ったのはまるちゃんだった。2人はお花や野いちごを囲んで、まるちゃんのおたんじょうび会をすることに。コジコジの冒険をこっそりと観察するまるちゃんの表情にはやさしさがあふれ、いつもはマイペースなまる子が世話好きのお姉さんぶりを発揮。相手を思う気持ちが2人のしあわせにつながっていく様子に心があたたまる。

 4巻の「11月 カエルさんの 冬じたく のまき」では、お散歩中にカエルに話しかけられた2人が冬眠の巣作りをお手伝い。冬が近づいたある日、2人がもう一度カエルがすむ場所に行き、「こんどはいつ会えるのかな」と切ない表情で思いをめぐらせる。“みんなも冬のあいだ、地面の下にすむカエルさんのことを思い出して”と語りかける作者は、このファンタジーの世界を通して、誰かを想う気持ちや人の心のつながりなど、目には見えない大切なものを教えてくれるようだ。

ゆったりと流れる子どもらしい時間を守りたい

 読み終えるとなんともいえずほのぼのとした気分になり、自分のまわりにゆったりとした時間が流れていることに気づく。子どもの頃にタイムスリップしたような気分である。思えば、まるちゃんとコジコジのように豊かな想像力や人を思いやる気持ちは、そういったゆったりとした時間のなかで生まれるものなのかもしれない。それなのに、私たち大人は自分たちの都合で予定をつめこみ、子どもの時間を奪ってはいないだろうか? たまには時間を忘れて、子どもといっしょに『絵本 まるコジ』の世界にどっぷりと浸かるのもいいかもしれない。

文=麻布たぬ
©さくらももこ ©さくらプロダクション