「うちの子、耳が聞こえないかも」妻に恋する漫画家の“小規模な”育児生活

出産・子育て

2020/4/3

『妻と僕の小規模な育児』(福満しげゆき/講談社)

 妻とふたりで楽しく暮らしていた漫画家、福満しげゆき氏に子供が誕生! Web連載中の育児コミックエッセイが、ついに単行本化。「妻が好き!」世の中には、こう口に出して言える夫がどれだけいるだろうか。福満氏はそんな数少ない(?)夫のひとりである。『妻と僕の小規模な育児』(福満しげゆき/講談社)には、そんなパートナーへの愛に加えて、子供への愛情がたっぷりと描かれている。“福満流”の表現で。

診断が多い…。でも笑える! 不思議な育児私漫画

 単行本の帯によれば、本作は私生活を基にした私漫画だ。もちろんコミックエッセイなのだがフィクションという体裁をとっており、私小説ならぬ私漫画という表現が確かにしっくりくる。

『うちの妻ってどうでしょう?』(双葉社)、『僕の小規模な生活』(講談社)、『妻に恋する66の方法』(講談社)などの私漫画シリーズに加えて、『中2の男子と第6感』(講談社)といったストーリーものも発表してきた福満氏。漫画で生活できるようになってしばらくして、ある日妻が言うのだ。「赤ちゃんほしい」。1巻までのエピソードは主に、こうして生まれてきた長男についてのもの(なお出産前後の様子は『うち妻』『小規模な生活』に詳しい)。

 なおこの巻には、“診断が多い育児生活”“どうしたらいいかわからず泣きました”という不穏なキャッチコピーがつけられている。

 ここでは具体的な内容を少しだけ紹介する。既刊でもさらっと触れられているが、生まれた長男は「両耳ともに聞こえていない」(かもしれない)と診断される。また片耳が非常に小さく、成長してもこのままである、とも。

 そんな状況に、マイペースな福満氏も強くたくましい妻も、さすがに泣くしかない。読みはじめたあなたは、こんな暗い育児エッセイなの、辛い…と一瞬たじろぐかもしれない。ただ結果から言うと、長男は成長すると聞くことができ、話せるようにもなる。

 まず前提として、『小規模な育児』は笑える。福満氏の私漫画を読んだことのない方に説明すると、福満氏は厳しい逆境や起きた現実(かなり小規模な)に、かなり偏った考え方や大胆さで立ち向かう。また不安がりつつも、突飛な発想で本質へ迫る。これらが独特のおかしみを誘うのだ。

 本作でも福満氏の独特な作風は健在。また子供の心身の発達という繊細なテーマを描きつつ、その間に福満氏が考えていることは「自分の分身(下半身の)の矯正」だったり「子供用の眠くなるシロップを舐めてみたい」なのである。何を言っているのか分からないかもしれないが、詳しくは本作を読んで確かめて、笑ってみてほしい。

 もしあなたが親だったら、読んでいて「オイオイしげ…」と山ほど突っ込みをいれてしまうかもしれない。でもそこがいい塩梅なのだ。基本的には暗くなりそうな現実を、笑える作品に昇華させているのだ。繰り返すが、診断は多いものの“安心して笑って読める”育児漫画なのだ。

育児中のパパ必読! 本作で福満氏に学ぶべきこと

 泣けて笑えて、感動もある。なかなか言葉を話せなかった長男が、教えていない数字を理解できたり、仮面ライダーの種類を暗記できたりすると「えっすごい!」と思うし、イジメにあっても(福満氏の知恵を借りつつ)自己解決してゆくさまは、思わずジーンとしてしまった。

 そして一風変わってはいるものの育児漫画としての学びはしっかりあるのだ。自分の子供の発達に不安がある方にはもちろんためになる。ただ一番大きいのは、福満氏の育児への真剣さだ。彼は問題が起きるたびに真剣に妻と子供から話を聞き、アイディアを出し、実行している。これがすごい。

 夫の育児参加とは、送り迎えや休みの日に遊ぶことや食事の世話といったルーチンワークだけではない。不確定な状況への対処を妻まかせにせず、一緒に考えて行うことである。わたしたち多くの夫・父親は、これがなかなかできていない…。

 全国の育児中のパパには本作をぜひ読んでほしい。泣いて、笑って、感動して。自分の家族のことを考えてみてほしい。

 そして自分が読んだそのあとに、パートナーにも読ませて感想を聞いてみよう。とらえ方は夫婦で違うはずだからだ。それを話しあうこともまた、育児にとって有用だ。

 まあ福満家では「しげ…ハァ(呆れたため息)」となるだろう。さてあなたの「妻はどうでしょう?」

文=古林恭

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