乙一の描く『罪』と『罰』の物語

小説・エッセイ

更新日:2012/6/25

天帝妖狐

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 集英社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:乙一 価格:432円

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たぶん、人によって見解は違ってくるのだろう。
なにを期待して読むか。それによっても意見は違うと思う。

松浦はね。デビュー作から入ったので、無理にホラー色を強めたり、エンターテイメント色をねじ込んだりしている作品より、本作のようなテイストの方が好きですよ。

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どの著作だったかは失念しましたが、あとがきで「長編にするためにがんばって200枚書いた」というようなことを読んだ覚えがあります。でも、そんなことする必要ないよ。1冊に足りなかったら、短編をくっつければいいんだから(本作「天帝妖狐」もそうだけど)。
「本にするから、これだけ書きなさい」とか、「ホラー作家として売り出すから」とか。そういう枠を作ってしまったら、この方の持ち味は殺されてしまうと思うよ。この人は本当の「作家」だから。職人技を求めるのは間違いでしょう。

で、「天帝妖狐」ですよ。
静かな田舎に暮らす少年が、出来心でやった「こっくりさん」の描写に始まり、「狐憑き」など。本編のほとんどが心情を書き綴った手紙の体裁をとっているにもかかわらず、その情景はおそらく誰にでも容易に想像できるだろうと思う。
怖がらせようという文章ではないんだよ。でも、読むと怖いを超越して「畏怖の念」まで感じさせてしまうのだから。もう「乙一の文章は化け物か!」と叫ぶしかない。

そして2つの時間軸を行き来しつつ物語は動き出すんだけど、アクションは快楽のためのアクションではなく、おそらく本作のテーマであろう「罪の意識」をあぶりだすための仕掛けなんだよなぁ。
主人公に感情移入したと思っていると、そのあとの展開でひっくり返される。

繰り返しになるけど。
乙一は1000ページとか書くような職人技は持ってないのかもしれないけれど、人の深いところに切り込む才能を持っている。
「短い話みたいだから」と、読み始めると電車を乗り過ごすよ。


太宰のなにかを感じさせる書き出し

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力を解放する場面。本来ならカタルシスとなるべきシーンなのだが…