「取り返しのつかないことをしてしまう前に読んでほしい」タイトル通り“青さと痛さと脆さ”に打ちのめされる人続出!

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/24

青くて痛くて脆い
『青くて痛くて脆い』(住野よる/角川文庫)

 誰だって、今よりちょっとでもいい自分になれるものなら、なってみたい。けれどそのためには、勉強したり、行動に移したり、たくさんの人と関わったり、努力しなきゃいけないことがたくさんある。その過程で、自分の限界を思い知ったり、誰かを傷つけたり傷つけられたり、“なりたい自分になる”可能性よりも、つらい思いを味わう確率のほうが高いから、躊躇して立ち止まる。できるだけ傷の少なそうな道を選ぶ。

 小説『青くて痛くて脆い』(住野よる/KADOKAWA)の主人公、田端楓もそうだった。けれど楓は、大学に入って自分とは真逆の、理想と行動力に満ちた、秋好寿乃に出会う。臆病で内向的な自分の気質を「優しいじゃん」と肯定されてから、彼の世界は少しずつ開かれていく。

 と、いうあらすじを聞けば『君の膵臓をたべたい』の著者の書く、切ないけれど胸がきゅんとする青春小説を想像する人も多いだろう。だが本作は、著者みずから「『君の膵臓をたべたい』という作品を、好きだと言ってくれている人たち込みで殴り倒してやろうと思った」という作品だ。読書メーターに寄せられた感想に、こんなものがある。

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青春小説なのかと思って読みすすめ、見事なまでに返り討ちにあった。駄目だ、こんな物語と出会ったら、冷静でなんかいられるはずがない。ストーリーを味わうというよりも、瞬間ごとに受ける衝撃の前にたたずむしかないような作品だった。正直に言ってしまうなら、考えていたのとはまるで違っていた。爽やかでも清々しくもなくて、もっと苦くて不安定で揺れていて、どうしようもないほどに胸をかきむしられる小説だった。(波多野七月)

タイトル通り「青くて痛くて脆い」話だった。当初の志を失ったモアイという団体。理想だけではやっていけないというのは分かっているけれど、変わってしまった現実に裏切られ、抗うような行動を起こす。その行動の動機はいまいち理解しにくいが、それ以上にとにかく「痛い」。心の奥底を深くえぐり出すような記述に痛さが一層際立っていった。成長とは弱い自分から目をそらすことではなく、その自分を認めること。それにしても高くついた成長だった。(アッキー)

 大学に入ったばかりのころ、楓と秋好がたちあげた「モアイ」というサークル。やがて秋好は楓の世界からいなくなり、“なりたい自分になる”という理想を叶えるための秘密結社だったモアイは、大学を代表する意識高い系の巨大就活サークルへと変貌していった。秋好の掲げた理想をとりもどすため、楓は黒い噂も聞こえてくるモアイを潰そうと決めるのだけど、その過程で浮かび上がってくるものがとにかく、青くて痛くて脆いのである。

「大切なものを失う大切さに気づく」物語。読んでいて苦しくなった。タイトルに惹かれて購入。予想以上にタイトル通りの作品で人の本質を描いていた。過去の自分の人を傷つけ傷つけられて深く後悔した学生の頃のほろ苦い思い出が甦ってくる。そして今でも「青くて痛くて脆い」部分を持っている事に気づかされる。たとえ取り返しのつかない様な間違いをしても、その失敗を取り返したり、糧にしたりする事も出来る。傷つかないと成長できない場合もある。苦い経験を乗り越える為に日々、行動していくこと。変化を恐れずに生きようと感じた。(タカユキ)

人間関係をテーマにした青春小説。 傷つけられたから、寂しいからって人を傷つけてはいけない。人を傷つけたあとにあるのは後悔と恥。ときどき嫌な自分になってしまうときがあるけど、そういうときに一度踏みとどまって思い出したい本。(りさこ)

大学時代、「モアイ」のようなサークルとは縁がなかった自分でも、心を抉られるような何かがあった。楓が傷つけて、傷つけて、ようやく辿り着いた教訓。どうか、この本を読む人には、現実で取り返しのつかないことをしてしまう前に読んでほしい。(あおでん)

 だが、これらのコメントからもわかるとおり、描かれているのはただの痛さではない。異なるコミュニケーションのなかで生きる人たちを意識高い系と呼び、馬鹿にしてしまうのは、どこかでそのてらいのなさに憧れてもいるからじゃないだろうか。だって本当に、他人と深く関わらない自分に満足しているのなら、他人のことなんて気にならない。鬱屈を抱えるのは変わりたいからで、でも、そんな自分を認めたくないから、心をとがらせて自分も他人も傷つけてしまう。

成長途中のような不器用な生き方の大学生。その真っ直ぐさと内に秘めた心に気付かない鈍感さと脆さ。チャラさと縁遠く感じるその青年の心の青さを感じ、時にはもどかしさを感じながら読み進めた。理想…思い描いた生き方…追い求めるうちがきっと楽しいのかも。いつの間にか手の届かないものに変わってしまっても、それは自分が変わってしまった場合もありうる。そういうのって、年なんか関係ないな…と改めて理想というものを考えさせてくれた一冊。それにしても若いうちの友情って美しいな。(あつひめ)

 他人事じゃないから突き刺さる、その青さと痛さと脆さを、物語を通じて存分に味わい、ぜひとも“殴り倒されて”ほしい。

文=立花もも