「校閲ガール」シリーズ著者が描くお仕事エンタメ。男性CAが航空業界を舞台に父の事故の真相を追う!

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/28

CAボーイ
『CAボーイ』(宮木あや子/KADOKAWA)

 子どものころの「将来の夢」を思い出してみてほしい。私がなりたかったのは、保育園の先生と冒険者、捜査一課の刑事さん。どれも身近な暮らしの中、本やテレビドラマの中で出会って、「かっこいい」と思ったからだ。

『CAボーイ』(宮木あや子/KADOKAWA)の主人公、高橋治真がパイロットを目指していたのも、そういった素朴な憧れゆえだった。

 新卒で入社して5年目、外資系のホテルに勤める治真には、諦めきれない夢がある。「パイロットになりたい」――パイロットである父に憧れ、幼いころから抱き続けてきたその夢は、みずからの意思によってではなく断たれた。治真が憧れた父は、NAL(ニッポンエアライン)で航空事故を起こし、引責したパイロットだったのだ。

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 現在の職場は、望んだ業界ではないが、働いているうちに仕事が楽しいと思えるようになってきた。今の仕事を続けていれば、確実に管理職にもなれる。上司や同僚にも恵まれ、治真が仕事に邁進していたある日、NALの公式サイトで、中途採用の求人が発表された。客室乗務員として採用されたなら、経験を積んだのち、希望の部署への異動も可能であることがうかがわれる募集だ。2年間CAをやれば、パイロットになれるかもしれない――一縷の希望を胸に、治真は素性を隠し、男客(ダンキャク=男性客室乗務員の略)としての再スタートを切った。

 航空業界に入ると、嫌でも父の噂は耳に入った。事故の責任を取ってパイロットを辞めさせられた父は、飛行機を墜落させかける航空事故を起こしたとき、薬物を使用していたという。会社の方針と報道によって世間的には事実となったその件を、治真はいまだ疑っていた。あの父が、薬物を使用するなどありえない。それに、父が本当に薬物を使用していたなら、解雇されていてもおかしくないのだ。それなのに父は、いまだ雇用され続け、現在もNALの子会社に勤めている。なにかがおかしい、腑に落ちない。意義ある遠回りの末に航空業界にたどり着いた治真は、パイロットになるという夢と同時に、父が起こした事故の真相を追うことになるのだが…。

 夢と秘密を持つ男性客室乗務員・治真をはじめ、「お嫁さんにしたい職業トップ3」の仕事に矜持をもって向かう先輩CAの紫絵、治真にひと目惚れしたゆるキャラ系グランドスタッフの茅乃、指導教官の美(?)魔女オブライエン美由紀など、本書に登場する個性豊かな人物たちには、それぞれの夢と事情、プライドと責任がある。彼らがたがいに影響し合い、みずからの大切なものを見出していく姿は、どことなく空港を連想させる。「飛行機を飛ばす」というひとつの目的に向かって、おのおのの仕事をまっとうする彼らは、どんな職種であろうとも、「安全で快適な空の旅」に必要な人物だ。本書読了後には、同じように、職業や人との出会いは、人生という旅路に欠かせないものだと思えてくる。

 人気テレビドラマの原作「校閲ガール」シリーズの著者が描く、ワーキング・エンタメ小説最新作。現実には外出のしにくい今夏だからこそ、フィクションの世界に旅立って、航空業界探索を楽しんでみてはどうだろう。

文=三田ゆき