【ネタバレあり】『鬼滅の刃 22』終わりにしよう、無惨――死の淵から生還した炭治郎がたどりついた「日の呼吸」の最終型

マンガ

公開日:2020/10/6

鬼滅の刃
『鬼滅の刃 22』(吾峠呼世晴/集英社)

 死の淵から生還した炭治郎は、鬼舞辻無惨を前に決意した。始まりの呼吸の剣士・縁壱の記憶で見た「日の呼吸」の型は、全部で12個。そのすべてをつなぐことができれば、13個目の最終型を導き出せる。たとえ縁壱が成し遂げられなかったことだとしても。

それでも俺は
今自分にできることを
精一杯やる
心を燃やせ
負けるな
折れるな

 この物語も、とうとう終わりが近づいてきた。『鬼滅の刃 22』(吾峠呼世晴/集英社)は、そのすべてが鬼舞辻無惨との死闘。たった1秒を生きることさえ命懸けの最終決戦は、確実にエンディングへとつながっていく。

 炭治郎が死の淵から立ち上がる、少し前にさかのぼろう。夜明けまで1時間以上を残して、鬼殺隊5人は無尽蔵の攻撃をひたすらかいくぐり続けていた。ついに無惨を追い詰めたはずが、その回復力、攻撃力、そして攻撃の際に受ける無惨の血の作用によってむしろ鬼殺隊のほうが追い詰められてしまう。

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 恋柱の甘露寺がイレギュラーな一撃を受けて倒れた。水柱の冨岡も刀を握りしめる握力を失う状況の中、全員に限界が近づいていた。

まずい…
夜明けまでもたない…!!

 岩柱の悲鳴嶼が敗戦を覚悟したそのとき、一匹の三毛猫が戦場に現れ、背中から注射のようなものを発射。鬼殺隊たちの体に突き刺さった。珠世が遺した「血清」だ。

 無惨の攻撃に含まれる彼の血を受けると、少量でも細胞が破壊されていき猛毒のように体をむしばむ。それに苦しめられていた鬼殺隊だったが、この珠世の三毛猫・茶々丸が届けた血清のおかげで症状が緩和した。

 さらに鬼の術で姿を隠した、善逸、伊之助、カナヲの3人が駆けつけ、加勢する。蛇柱の伊黒が、決死の万力をこめた赤い刃「赫刀(かくとう)」で無惨を斬りつける。

 夜明けまで、残り1時間3分。鬼殺隊が一丸となって無惨に立ち向かった。胸を熱くするその姿に、希望が差したかに見えたが…。

 次の1秒を生きることさえ命懸けの戦闘の最中。「パギャ」という鈍い音とともに、その場にいた全員が吹き飛ばされて重傷を負った。カナヲはわずかに意識があるものの、無惨の目の前に膝をついたまま立つことさえできない。

 冷酷な表情でカナヲを見つめる無惨。もはやここまでか。無惨が片腕を振り上げたそのとき。

ヒノカミ神楽 輝輝恩光

 炭治郎が死の淵から生還した。無惨の腕を切りカナヲを救出すると、顔の半分以上が無惨の血に侵された「醜い姿」で、日の呼吸を武器に無惨と向かい合う。

どちらが鬼かわからないな
竈門炭治郎

 皮肉を口にする無惨。しかし炭治郎の静かな殺気が、唯一自身を追い詰めた縁壱と重なり、「……虫唾が走る」とも毒づく。

終わりにしよう
無惨

 この物語もとうとう終わりが近づいてきた。本作22巻は、これまで以上に熱量と人間ドラマがこめられている。冒頭では、蛇柱・伊黒の血塗られた生い立ちが明らかになり、それに重ねるように伊黒が甘露寺への純真な気持ちを、心の中で打ち明ける。これまでもコメディタッチを交えて2人の模様が描かれていたが、この祈りとも受け取れる告白は、切なさで胸を締めつけられた。

 そして前巻から続く縁壱と竈門一家の記憶の、終わりのシーン。とても短い場面だが、別れ際で見せた、縁壱の穏やかな表情が印象深い。

 忘れてはいけないのが、炭治郎の妹、禰豆子だ。彼女は鬼の血に抗い続け、少しずつ無惨の支配を克服してきた。そして禰豆子は走っていた。兄が命懸けで挑む決戦地へ、息を切らしながら。その途中で彼女の頭の中に走馬燈のように過去の記憶が駆け巡る――。

 なにより鬼殺隊と無惨の、怒涛の死闘。すべての登場人物の物語と感情が重なり合って、ひとつにつながっていく様子に、どこまでも感嘆させられる。

 『鬼滅の刃』は、次で最終巻だ。読者の心を揺さぶり続けた物語も、ついにエンディングを迎える。すぐにでも目にしたいところだが、連載が終わったときの寂しさを思い出すようで、なんとも複雑だ。

 それでも社会現象を巻き起こした漫画史に刻む傑作を、リアルタイムで追い続けられた幸運は、いちファンとして大きな誇りではないかと思う。

文=いのうえゆきひろ