映画『アルキメデスの大戦』で製図監修した著者が、科学と数字を駆使して「日本史3つの謎」を解く!

文芸・カルチャー

公開日:2020/10/21

日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る
『日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る』(播田安弘/講談社)

 13世紀後半。当時、世界最大の帝国だった元(蒙古)が日本へ2度にわたって侵攻した。しかし、1度目の文永の役では九州上陸後に撤退した蒙古軍の軍船を暴風雨が直撃。2度目の弘安の役では巨大台風が発生。日本は国家存亡の危機を”神風”によって脱した――この“元寇”のあらましについては誰もが歴史の授業で習ったことがあるだろう。しかし、元寇にはひとつ大きな謎が残っている。それは1度目の文永の役で、なぜ蒙古軍は九州攻略を目の前にして撤退してしまったのか、ということだ。

 本書『日本史サイエンス』(播田安弘/講談社)はこうした歴史の通説にある謎や疑問点について科学的かつ技術的に検証していく1冊。取り上げられている謎は、上記の「文永の役で蒙古軍はなぜ一夜で撤退したのか」のほか、「羽柴秀吉の“中国大返し”はなぜ成功したのか」、「戦艦大和は本当に“無用の長物”だったのか」の合計3つ。

 著者の播田安弘氏は歴史の専門家ではなく、船舶設計のベテラン技術者なのだが、実はこれが本書の大きなポイントのひとつになっている。著者は文献や古文書だけを根拠にするのではなく(もちろん議論の前提として数多くの資料を参照しているのだが)、あくまでエンジニアの視点から、科学的なデータと知見、技術、そして“数字”を駆使して、歴史的事象を検証するのだ。

 たとえば、蒙古軍撤退の謎について著者は当時の蒙古軍船をコンピュータグラフィックで完全再現する。これは船舶設計の専門家としての知識、技術がなければできないことだ。さらに造船に必要な木材や大工の数、建造の期間、蒙古軍の兵力や物資までを分析し、海の気象状況など細かいシミュレーションを重ねていく。その結果、蒙古軍船にはある大きな弱点があったことが判明。それが“上陸戦失敗”につながったという仮説から蒙古軍撤退の真相に迫るのだ。

 続く「秀吉の大返し」と「戦艦大和」の謎についても、通説の前提になっている記述から整合性が取れなかったり、不可解だったりする点を見つけ出し、どのような条件であれば現実的にその事象が起こり得たのか、あるいは通説と異なる事象があったのではないか、論理的に考察していく。たとえば、本能寺の変の直後の中国地方から驚異的なスピードで京都に戻って明智光秀を討った「秀吉の大返し」について、著者は秀吉軍の部隊構成から必要な物資を計算し、その移動距離、条件などを考えて、「通説通りの“中国大返し”は不可能だった」と結論。そこで著者は大返しを実現する斬新なシナリオを提唱する。戦艦大和についても、造船の専門家としての知見から、軍艦としての性能や欠点を細かく指摘しながら、本来あるべきだった運用方法や戦後に受け継がれた技術的な貢献といったポイントを考察していく。

 もちろん、そこには多くの推測も入っているのだが、客観性のある緻密なデータと数字を提示したうえでの考察なので、その主張は十分に説得力を感じさせるものになっている。この証拠と論理に基づく“謎解き”はミステリーの推理パートを読んでいるかのような趣すらあり、歴史好きはもちろん、そうでない人であっても、きっと知的好奇心を存分に刺激されるはずだ。本書は伝統あるサイエンス系新書レーベルとして高い信頼を得てきた講談社「ブルーバックス」の新刊。こうした歴史の謎を“科学”で解き明かそうとする本書のアプローチは、まさに「ブルーバックス」らしいといえるだろう。

 著者は2019年の映画『アルキメデスの大戦』で製図監修を担当し、戦艦大和の図面も作成したという。それだけに「戦艦大和は無用の長物だったのか」という疑問に迫る論考には、“史上最大の戦艦”への強い思い入れを感じさせるものになっている。

「大和こそは、日本刀から連綿と続く日本人のものづくり技術の総結集であり、まさに日本人が起こしてみせた奇跡だったのです。」

 そんな戦艦大和がなぜかくも無残に沈没してしまったのか。その謎を解いていくことで、現代にまで通じる日本の根深い問題点が浮かび上がる。その教訓をどのように活かすべきか。それを考えることが、まさに「歴史に学ぶ」ということになるのだろう。

文=橋富政彦

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