コンビニには通える中高年引きこもりの増加問題。脱するための正しい支援とは?

社会

公開日:2020/10/26

コンビニは通える引きこもりたち
『コンビニは通える引きこもりたち』(久世芽亜里/新潮社)

 2019年3月、内閣府の調査により、40歳から64歳までの「引きこもり」が、推計61万人に上ることが明らかになった。この数字により可視化されたのは、中高年と年老いた親が家庭内で孤立してしまっているという現状だ。実際、80歳の親と50代の抱えている「8050問題」に関するデータによると、40代以上で増加しているという。

 こうした問題の相談窓口は、NPO法人、株式会社、個人、医療機関などがあるが、『コンビニは通える引きこもりたち』(新潮社)を著したのは、引きこもり対策を扱うNPO法人「ニュースタート」に勤める久世芽亜里氏。本書はこれまで久世氏が対面してきた当事者たちの現状や対策を記したもので、「現場の声」がリアルに反映されている印象だ。

 本書が重要視しているのは、当事者自身が何をしたらいいかではなく、親も含めた周囲がこの問題をどう扱うかだ。著者が具体的に提案しているのは、「家族をひらく」ということ。例えば、当事者が家や部屋の外へ出るために「レンタルお兄さん」「レンタルお姉さん」と呼ばれる第三者の手助けを借りるという方法だ。

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 次に、「子の親離れ」と「親の子離れ」が肝要だと著者は説く。引きこもりの相談に来た親も、「我が子のことは自分が一番分かっているから、アドバイスは参考程度にしか聞かない」という親(特に母親)も多い。過度の愛情により客観性を失ってしまっているのだろう。親子だから子供と分かり合える、という幻想を抱いているケースが目立つというのだ。

 また、引きこもりが精神疾患によって起こるという誤解も多い。その原因が統合失調症や発達障害だと思い込む親が多数いるが、これは誤った認識であるだと著者は言う。引きこもりの3割が病院に行ったことがあるものの、病院に行く必要がないのに赴いたり、不要な薬を飲んだりしているケースもあるという。

 親の誤解は他にもある。引きこもりの子供を持つ親たちが集う「当事者会」が全国で頻繁に行われているのだが、そこに何度か行っただけで親が満足してしまうことが度々あるという。親は「親が変われば子供も変わる」といった惹句に惹き付けられて当事者会に赴くと、それだけで「何かしたような気になり、安心してしまう」のだと。となると、大事なのは具体的な実践だろう。親は、早急にどの支援団体が子供に合っているかを探り、「家族をひらく」ことに専心するべきではないだろうか。

 なお著者は、引きこもりが「固定化」することが問題だという。自宅の中で変化のない日常を送っていると、就業や通勤への恐怖心が芽生える。電車に乗ってパニック状態に陥ることもある。つまり、引きこもりが長期化すると、それに適応するような身体や精神が形成されてゆくということだろう。一定の状態が長期化することで心身ともに鈍くなり、判断力や思考力も落ちてくる。著者もそう指摘する。

 本書のタイトルの通り、2016年の内閣府の調査による15~39歳の引きこもりの内訳を見ると、自宅から出られるような軽度のケースも多いという。具体的には「趣味の用事の時だけは外出する」という人が67.3%、「近所のコンビニなどには出かける」という人が22.4%というデータがある。わずかながら光明をもたらす統計ではないだろうか。なんらかの「口実」さえあれば、本人は外に「ひらく」契機を持っている。本書に記されているデータや事例はその一助となるのではないだろうか。

文=土佐有明