ミスター博物館とマンガ家・久世番子おすすめ!密を避けて楽しめる東京の穴場「博物館・美術館」5選!

文芸・カルチャー

更新日:2020/10/23

博物館ななめ歩き
『博物館ななめ歩き』(久世番子:著、栗原祐司:監修/文藝春秋)

 渋谷のど真ん中に、古代エジプト遺物を1000点以上所蔵し、常時約100点を展示する博物館があるのをご存じだろうか。目を惹くのは大々的に宣伝される企画展だが、全国にはそれ以外にも無数の、小さいけれど濃ゆい博物館が存在している。そのなかから選りすぐりを知れるのが、『博物館ななめ歩き』(文藝春秋)。マンガ家の久世番子さんが、京都国立博物館副館長・栗原祐司氏―‐全国6200館の博物館を巡ったミスター博物館とともに、全国94の博物館・美術館をイラストともに紹介していく一冊である。

 そこで、密を避けつつ芸術の秋を楽しめるおすすめスポットとして、本書から東京の博物館・美術館を5つご紹介しよう。

①世界で一番読まれている本! 聖書考古学資料館

博物館ななめ歩き p.13

 東京・御茶ノ水駅から徒歩1分、ビルの5階の一室にひそむこの資料館のメインはあくまで考古学。十字架や宗教画などはおかず、聖書の時代に生きた人々の生活をリアルに再現することで、宗教学ではなく、暮らしに根づいた信仰として聖書を理解していくというもの。紹介する一発目がこれか! と、そのセレクトの渋さに、本書への期待と信頼感ががぜん高まる。たった一枚のイラストで、必要な情報はすべて紹介し、なおかつ「行ってみたい!」と思わせてくれる久世さんも、スゴイ。

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②南満州鉄道の株券も!東京証券取引所 東証Arrows

博物館ななめ歩き p.29

 日本の金融取引の中心地ともいえる東京証券取引所。マーケット・センターの電光掲示板はテレビでもおなじみだが、ここで紹介するのは証券史料ホール。明治以来の、日本の株式市場・証券取引所の歴史的資料が展示されているという。南満州鉄道の株券なんてものも見られるらしい。久世さんが惹かれた、会社にちなんだ証券のデザインも気になるところ。東証のある日本橋・兜町は、平将門の兜を埋めて塚にしたことから名づけられた場所。近くには、東証の鎮守でもある兜神社もあるので、ついでに寄るのもいいだろう。

③カレーを食べずにはいられない! 中村屋サロン美術館

博物館ななめ歩き p.43

 中村屋といえばいわずと知れたカレーの老舗。おいしそうなにおいの満ちた新宿のビル3階には、2014年に開館した美術館が。創業者夫妻は中村屋店舗の裏にアトリエをつくり芸術家を住まわせたりしていたそうで、その一人である中村彝(つね)は作品が重要文化財に指定されたほどの人。陰ながら日本の芸術・文化を支えた2人にゆかりのある芸術家の企画展が見られるほか、2人がいかに中村屋を発展させたのかその歴史を知れるのもおもしろい。帰りはもちろん、カレーを食べずにはいられないはず。

④世界でも5本の指に入る! 東洋文庫ミュージアム

博物館ななめ歩き p.73

 天井まで書棚にずらりと並ぶモリソン書庫の写真は、SNSなどで観たことがある人もいるのでは。90年以上の歴史をもつアジア最大の東洋学センター・東洋文庫。世界でも5本の指に入る規模といわれるこの場所に所蔵される資料の数は、国宝5点、重要文化財7点を含む約100万冊。企画展示に常設の絵画(久世さんいわく浮世絵の保存状態がとてもよいそう)、さまざまな国で刊行された東方見聞録のコレクションなど、見ごたえたっぷり。さらに館内はフラッシュさえたかなければ基本、撮影OK。本好きにはたまらない聖地である。

⑤都心とは思えない緑とおしゃれな建物! 東京都庭園美術館

博物館ななめ歩き p.37

 本書のなかではやや有名どころかもしれない東京庭園美術館。その名のとおり、都心とは思えない豊かな緑あふれる庭園が魅力的だが、建築好きには見逃せないのが美術館として活用されている旧朝香宮邸。内部のデザインはアール・デコ様式で統一されており、部屋ごとに異なるランプや、曲線の美しい階段やガラス細工にうっとりすること間違いなし。なお、もっと自然に触れたくなったら、うっそうと緑の茂る隣の自然教育園もおすすめだ。

 これ以外にも、『ちはやふる』ファンは必見、神田神保町の「奥野かるた店小さなカルタ館」や、日本橋・三越前の「くすりミュージアム」、レストランでは薬膳スープがいただけるらしい医食同源! 高輪の「ニホンドウ漢方ミュージアム」、夏目漱石の書斎が見られる早稲田の「漱石山房記念」など、なかなかコアなラインナップも。

 海外から有名な絵画が運び込まれてくる、なんてことはないかもしれないけれど、個人の所有であったり専門分野に特化していたり、紹介されている場所にはすべて、対象に向ける誰かの並々ならぬ想いがほとばしっている。本書を片手にふらりと足を運ぶのはもちろん、「このテーマで博物館つくれちゃうんだ……」とモチーフそのものに興味をわかせてくれる一冊である。

文=立花もも