指原莉乃、バイキング小峠、さまぁ~ず大竹…彼らの言葉が心に刺さる理由を作詞家・いしわたり淳治が解剖!

文芸・カルチャー

公開日:2021/1/16

言葉にできない想いは本当にあるのか
『言葉にできない想いは本当にあるのか』(いしわたり淳治/筑摩書房)

 2005年に解散したスーパーカーというバンドですべての作詞を手掛け、その後はプロの作詞家とし各所でひっぱりだこのいしわたり淳治。彼のコラムを一冊にまとめた『言葉にできない想いは本当にあるのか』(筑摩書房)は、著者の目に留まった発言や歌詞、流行語などをピックアップし、様々な角度から論じたもの。日々の生活の中で著者が驚き、衝撃を受け、触発された118の言葉が紹介される。

 意外だったのは、著者がインターネットではなくテレビ番組で聞いたコメントや流行語にセンス・オブ・ワンダーを感じ取っているところ。特にお笑い芸人の言葉のチョイスやセンスに対する嗅覚は実に鋭敏だ。以下、いくつか例を挙げよう。

 バイキングの小峠が食レポで「けだるい味っすよね」と斬新な表現をしたことに感嘆し、さまぁ~ずの大竹が普通なら「どや顔」と言うところを「どうだフェイス」と言ったことにオリジナリティを見出す。友近が時代遅れの価値観に対して「超いにしえ」と形容するのを的確だとし、オードリーの若林が一般人のダジャレに「ゴキゲンですね」と返したことを「相手を傷つけずにすべてを丸く収める完璧な返し」として賞賛する。

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 他にも著者がお笑い芸人に敬意の念を抱いていることは、行間から滲出している。例えば、キャッチーな音楽に乗せて「そんなの関係ねえ!」とか「なんでだろう」と歌い、各所に浸透している定番ネタ。その使い勝手の良さと言葉を、著者は高く評価している。そして著者は、彼ら/彼女らに比べて、ミュージシャンはもう少し世の中で機能する言葉を作ってくれてもいいじゃないか? と問題提起する。

 芸人ではないが、元HKT48の指原莉乃が「結婚願望はありますか?」と問われ「日によります」と答えたことに、なんて素晴らしい回答だろうと褒めたたえる箇所も。確かに「ある」と言えば誰とどんな家庭を作りたいか? と問われそうだし、「ない」と言えば何か問題を抱えているのかと詰問されそうだ。指原の回答は、面倒くさい質問に対する真理をついた言葉だと思う。

 最後に著者は「人は何故歌うのか?」という問題に思案を巡らせる。そこで彼は、最もインパクトがあるポップな歌詞として、「サル ゴリラ チンパンジー」という、誰もが耳にしたことのある曲の秀逸さに触れる。1914年に創られた「ボギー大佐」という曲が元ネタの替え歌だが、これを例に挙げると「人間は歌を歌いたい生き物」だとしか思えない、と著者は言う。しゃべったり文章にしたりするだけではなく、メロディーに乗せて歌うほうが圧倒的に心地よいからである。

 ちなみに、著者のテレビ批評はどれも腑に落ちるものだが、彼のテレビ批評が読者に刺さるのは、ナンシー関が亡くなったから、という事実も関係しているのではないか。テレビでのタレントの言動や立ち居振る舞いを彼女ほど的確に表現できる人がいなくなったのだ。ナンシーの衣鉢を継いだ人としてぱっと思い出すのは、辛酸なめ子や武田砂鉄くらい。いしわたりにはぜひ、すべてテレビ批評だけでまるまる一冊本を書いてほしいところだ。

文=土佐有明