クスっと笑えて心はぽっかぽか! 元動物看護師が描く、癒し系猫コミックエッセイ『にんげん1人とねこ1匹』

マンガ

更新日:2021/3/18

にんげん1人とねこ1匹
『にんげん1人とねこ1匹』(とみた黍/KADOKAWA)

 数年前に離婚をした時、心が壊れるかと思った。笑いながら建てたマイホームには元夫と積み重ねてきた思い出がこれでもかというほど詰まっていて、ひとりポツンと残されたという現実が刺さった。この家でまた笑えるようになれたのは、3匹の愛猫たちがそばにいてくれたから。この子たちと共に生きられる日常は温かい。

『にんげん1人とねこ1匹』(とみた黍/KADOKAWA)は過去を思い出させ、愛猫へ改めて「ありがとう」と伝えたくなる癒し系コミックエッセイ。

“私にとって猫は、種族の違う同居人という感じです。言葉はわからないけれど、なんとなく相思相愛な気はしています。もう4年一緒に暮らしているのに、いまだにふと、なんで猫が同じ部屋にいるんだろうとびっくりして感動することがあります。”

 愛猫への思いをそう綴る作者・とみた黍さんは本作で、出会いの経緯やコミカルな日常を紹介。元動物看護師ならではの視点も交えつつ、猫と暮らす幸せを伝えている。

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あるあるな「猫との日常」にクスっとしちゃう

 ふたりの出会いは、2016年3月11日。その日、とみたさんは仕事帰りに自宅マンションの近くで猫の大きな鳴き声を耳にした。さっそく付近を捜索してみると、生後3ヶ月ほどの子猫を発見。すぐそばには交通量がそこそこある大きな道路があったため、ひとまず自宅へ連れ帰ることにした。

 いつか猫と暮らせたら……。動物病院を退職してから、ずっとそう思ってはいたものの、当時とみたさんはグラフィックデザイナーの仕事に迷いを感じていたそう。動物看護師として命の重さを目の当たりにしてきたからこそ、自分のことで精いっぱいなのに、この先何年も生きる猫を本当に幸せにできるのかと悩んだ。

 共に暮らすか、里親を探すかで悩んでいた時、勤めていた動物病院で供血猫(もしもの時に輸血に協力してもらう猫のこと)として院内で迎えることもできると提案され、さらに困惑。そこで、引っ越せるペット可物件が1週間で見つかったら共に暮らそうと決めた。

 すると、希望に叶う物件に見事巡り合うことができ、猫との同居生活がスタート。その背景には、「本当はこの子を手放したくない」というとみたさんの猫愛もあったようだ。

 こうして始まった猫との暮らしは、驚きと胸キュンの連続。猫は好奇心旺盛な姿を見せ、とみたさんを笑顔にしている。例えば、スマホを使用している際には、スマホ画面に外からの光が反射して現れた影を夢中で追いかけることも。

 我が家の愛猫にも見られる行動だったため、この描写を見て自然と目尻が下がった。

 また、自宅で創作活動に勤しむ愛猫を目にするのも猫飼いあるある。

 うちの猫たちもじっくりと時間をかけ、キッチンの壁紙を独創的なものに変更しているので、どんなアートができるのか楽しみにしている。

 こんな風に、本作には猫飼いさんが「わかる」と共感できるエピソードが多数盛り込まれている。よくおしゃべりをしてくれる愛猫と猫語で会話するとみたさんに自分を重ね合わせるのも、きっと筆者だけではないだろう。

一緒に暮らしてこそ分かる「猫の優しさ」

 一緒に暮らす時間が長くなるにつれ、つくづく猫は優しい生き物だと感じる。人間にあまり関心がないように見えるのに、実はものすごく飼い主の行動を観察しており、こちらの気持ちを汲んでくれるから。時々、猫は人の感情が見えているのではないかと思う。

 実際、とみたさんもこれまでにたくさん愛猫の優しさに触れてきた。例えば、インフルエンザでダウンした時にはずっとそばに寄り添っていてくれ、悲しいことがあった日には頭を優しくゴツンとしてきて、顔を舐めてくれたそう。

 こうしたさりげない優しさから私たちは他者の思いやり方を学ぶような気がする。マイペースなのに、自分とは違う生き物を思いやり、信頼してもくれる猫。そんな尊い生き物と同じ家で暮らせることは、この上ない幸せだ。ご飯やおもちゃではなく、愛猫が「私」という人間を求めてくれるように、自分もありのままの愛猫を無条件に愛していきたい。

 そんな気持ちにもなる本作には、自分の猫愛を再確認できるエピソードがまだまだたくさん。「布団で一緒に眠る」という平穏を掴むまでに奮闘した“おしっこバトル”の記録や知り合いの美容師さんから聞いた知られざる「猫の過去」など、どれも見ごたえばっちり。ぜひ手に取ってみてほしい。

 1人と1匹穏やかな日常。それはどうしたら愛猫たちに「人と暮らす幸せ」を感じてもらえるのかと考えるきっかけにもなる。

文=古川諭香