死を望む彼と、彼の生を望む彼女が選んだ「最愛」の結末。ベストセラー『忘れ雪』の感動がふたたび

文芸・カルチャー

公開日:2021/3/24

なごり雪
『なごり雪』(新堂冬樹/KADOKAWA)

 愛とは、何か。それは、自分本位ではなく、相手本位の思いをいうのだと思う。大切な人の幸せを第一に考えること。大切な人の立場に立ち、自分の思いよりも相手の思いを優先すること。それがきっと愛に違いない。だが、もし、あなたの愛する人が死を望んだ時、あなたは何をしてあげられるだろうか。その選択を肯定するのが愛なのか。「そんな選択は間違っている」と否定するのは愛ではないのか。新堂冬樹氏著『なごり雪』(KADOKAWA)は、そんな究極の選択に迫られた男女の純愛小説だ。

 新堂冬樹氏といえば、『忘れ雪』、『ある愛の詩』、『あなたに逢えてよかった』の純恋3部作が一躍ベストセラーとなったことで知られる小説家。『忘れ雪』から18年、新堂氏が長年温めてきたのが本作。互いを大切に思っているからこそ、すれ違っていく男女。2人が導き出す決断は、涙なしには読むことができない。

 主人公は、ファッションライターの小野寺古都。彼女は、トップモデルの海斗の密着取材をするため、スイスを訪れた。海斗は、とにかく古都に対して露悪的にふるまう。しかし、誰よりも短気で勝ち気な古都は、そんなことではめげなかった。立場を弁えない彼女の姿は、海斗の胸に深く刻まれた。彼のそばにいるのは、「トップモデル」としての彼を愛する人ばかり。素の自分には何の価値もないのではないかと思っていた。だが、古都は、まっすぐに、ありのままの海斗を見てくれた。やがて、2人は惹かれ合い、付き合い始めることに。だが、そんな幸せな時間はそう長くは続かなかった。ある日、海斗は交通事故に遭い、半身不随になってしまったのだ。

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 たとえ海斗が一生車椅子生活を送るとしても、古都の海斗への思いは変わらない。ずっと海斗の面倒をみることだって決意していたはずだった。だけれども、海斗は、古都に会うことさえ拒む。半身不随になった海斗は、自分で排泄をすることも、寝返りを打つこともできない。トップモデルとして自分をどうみせるかを考え続けてきた海斗は、何もできなくなってしまった自分自身に強い絶望を感じていた。それに、婚約者を自分の介護のために縛り付けたくない。そう思った彼は、自らの命を絶つことを考え始めていた。

「君の希望を叶えることで、僕を地獄に落とさないでくれ」

 大切な人に生きていてほしいと思うことは自分勝手なことなのか。幾度となく葛藤する古都の姿に胸が痛む。相手の立場に立つということはなんて難しいのだろう。どうしたら相手の絶望に寄り添うことができるのだろうか。

「なごり雪に願い事をすれば叶うって、小学生の頃に読んだ本に書いてあったの」
「五十年後も、この人の隣にいられますように……」

 なごり雪に祈った彼女の願いは届くのだろうか。この作品は、胸に突き刺さるよう。もし、古都や海斗と同じ状況になったとしたら…。誰だってこの本を読めば、想像せずにはいられない。本当の愛とは何なのだろうかと考えずにはいられなくなる作品だ。

文=アサトーミナミ