「あやまってすむようなうそはつかない」――谷川俊太郎の詩「うそ」が、エイプリルフールに絵本となって登場!
更新日:2021/4/1

1度でいいから、エイプリルフールにみんなをあっと驚かせるような嘘をついてみたい。と夢見る人は少なくないだろう。だが嘘をつくということは、けっきょくのところ「騙す」ということだ。すぐにネタばらしするならともかく、へたすればその日1日つづく嘘を、真に受けてしまった誰かを傷つけたり、日常に過度な影響を与えたりしてしまうおそれは、おおいにある。冗談を楽しむ余裕ももちろん大事だけれど、誰かにとりかえしのつかない嘘をついてしまう前に、読んでみてほしいのが、谷川俊太郎さんの詩を中山信一さんの手で絵本化した『うそ』(主婦の友社)だ。

〈ぼくは きっと うそをつくだろう〉と青空を眺めながら物思いにふける少年の絵から始まるこの絵本。どのページでも少年はどこか遠くを見ている。犬の散歩をしながら。降りしきる雨がやむのを待ちながら。水たまりにうつった自分を見つめながら。その視線と心の向く先は、どこか遠い。今はまだ、嘘をついたことがない少年が、いつかきっとついてしまうだろうと確信する未来。それは、絵本を手にとっている私たちの今かもしれない。
嘘を1度もついたことのない人はいないだろう。巻末で谷川さんが打ち明けている、いたずらを隠すために隣の子のせいだと言ってしまったというような、保身のための小さな嘘。大切な人を心配させないための「大丈夫だよ」が嘘ということもある。子どもを寝かしつけるために「鬼がくるぞ」なんて言う嘘もある。
嘘の全部が悪いわけじゃない。ホワイト・ライ(良い嘘)なんて言葉もある。けれど誰が正確に、ホワイトとブラックを見分けることができるだろう? たいていの嘘はたぶん、谷川さんの言うとおり〈嘘と本当の混じった灰色〉で、いいも悪いも判別できないまま、自分に「嘘をつくしかなかった」「これはセーフ」と言い聞かせることしかできない。
〈うそとほんと、良いことと悪いこと、美しいものと醜いもの、どっちかに割り切れないところに、生きていることの本当の姿があります。それを少しずつわかっていくというのが、大人になるということではないでしょうか〉とも谷川さんは綴っている。

絵本の主人公である少年は、まだ大人じゃない。だけど、嘘をつくと人は苦しくなることを知っていて、嘘でしか言えない本当のこともあるとすでにわかっている彼は、たぶん、読み手の私たちより、ずっと大人だ。だから少年は「嘘なんてついちゃいけない」とは言わない。ただ〈うそをついても うそがばれても ぼくはあやまらない〉と誓う。〈あやまってすむようなうそはつかない〉のだと。

その決意に触れて、あなたは何を、思うだろう。
文=立花もも