たった10文字なのに…。あなたの想像力が恐怖を増幅させる恐怖体験!

文芸・カルチャー

公開日:2021/10/16

10文字ホラー
『10文字ホラー』(氏田雄介:編/星海社)

 ホラー小説や怪談話などのオンシーズンはやはり夏だが、この秋の夜長にもちょっとした刺激を求める方は少なくないのでは?

 そんなアナタにおススメしたいのが『10文字ホラー』(氏田雄介:編/星海社)。その名の通り、10文字で思わず背筋がゾクッとする新感覚のホラー文学を楽しめる一冊だ。作品のルールはたったの2つ。

①文字数は10文字ぴったり
②文末に句点は不要

 17音で風景・出来事の感動を伝える俳句を生み出した日本らしい、新たな文学と言っても過言ではない。そんな10文字ホラー作品の楽しみ方について本書を編纂した氏田雄介氏は、

たった10文字、されど10文字。大切なのは、想像力を働かせて読むこと。たった10個の文字が、あなたを奇妙で恐ろしい世界へと導いてくれることでしょう。(本書p8「はじめに」より)

 と話す。さて、本稿は10文字ホラー5作品を紹介。ぜひ、じっくりと想像力を働かせて、背筋がヒンヤリする感覚を味わっていただきたい。

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踏んだ新雪から滲む血

 そこを踏むまでは、まだ血が滲んでいなかった新雪。つまり、新雪の下にあるはずの死体は死んで間もないということだ。となれば、すぐ近くで犯人がこちらをうかがっているかもしれない。遺体の発見を遅らせるため、第一発見者となる自分の命を取ろうとゆっくりと少しずつ、少しずつ歩を進める。次第に大きくなる殺人鬼の息づかい。恐怖にすくむ足……と、そんな想像をしてみたとき、この10文字の怖さたるや。

 次は10文字という縛りを上手に使った作品。

殺人鬼の正体に気づい

 人里離れたとある洋館で起こる連続殺人事件。たまたま入ってしまった部屋のノートパソコンを覗いてみると、犯人の正体が明らかになるヒントが。「あの人が……」――その瞬間、事切れる。

 あえて、文章を完成させない。そうすることで唐突に訪れる“死”を予感させる。10文字とは思えないほど、その場の息づかい・緊張感が伝わらないだろうか。

だんしたちおしたわ←

 最後の1文字に「矢印」を使うことで、10文字という限界をある意味突破したテクニカルな作品。ひらがなを左から読み、矢印に合わせて右から読む。すると「だんしたちおしたわ わたしおちたしんだ(男子たち押したわ 私落ちた死んだ)」に。

 学校の屋上だろうか。複数の男子生徒がクラスのいじめ対象となっている女子生徒を、ふざけて押してしまう。その拍子に、少女は屋上から……。

兄、姉、父、母、誰か

 情報量は限りなく少ない。だが、底知れぬ怖さを感じる作品。自分を含めたどこにでもある5人家族の構成だが、そこに異物が混じっている。

 日常からすでに「誰か」いるのか。旅行先でたまたま「誰か」に目を付けられてしまったのか。人によって千差万別、さまざまなストーリーが創造できる。まさに想像のしがいがある作品だろう。

鞄の中で手を摑まれた

 これは単純に怖い。夜、カバンに入れっぱなしにしていたスマホを取りに行きたくなくなる。

 いかがだろうか。本来であれば、怖くない10文字。しかし、人間の想像力をもってすればその10文字が怖くなり、恐怖が増幅される。人の想像力の可能性、素晴らしさが10文字ホラーに感じられないだろうか。

 また、少ない文字数だからこそ、「てにをは」一つで作品の印象がガラッと変わるのも特徴。そこに、一文字に対しての作者のこだわりが垣間見えることも、この文学の面白さだ。

 本書には今回紹介した作品のほか、全11章に分けて多くの作品が収録されている。1日1章ずつ、想像力を働かせながら、「これは!」というホラー作品をじっくり探してみてはいかがだろう。ただし恐怖で眠れなくならぬようご注意いただきたい。

文=冴島友貴

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