下駄華緒氏の体験談をマンガ化! 大切な人を見送る“火葬場”で働く職員たちは、ご遺体の前で何を思うのか?

マンガ

公開日:2021/10/30

最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常
『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』(下駄華緒:原案、蓮古田二郎:漫画/竹書房)

 誰もが人生の大事な場面で訪れるものの、実態があまり知られていない場所がある。亡くなった人の身体を焼いて骨にする、火葬場だ。毎日たくさんの遺体が運び込まれ、悲しみに暮れる遺族が訪れる。多くの人にとっては非日常だが、そこで毎日働く人たちがいる。

 本作『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』(下駄華緒:原案、蓮古田二郎:漫画/竹書房)は、YouTubeチャンネル「火葬場奇談」が話題の元火葬場職員・下駄華緒さんの体験をマンガ化した作品。実際に働いているからわかる火葬場職員の壮絶な日常を、ときにコメディを交えながら描いている。普段の私たちは、火葬されて骨になった姿しか見ることはない。だが、ご遺体の焼き方ひとつにも大変な苦労があるのだ。

 主人公の下駄華緒は、火葬場を「人生最後のしめくくりをしてあげられるすばらしい仕事」だと感じて火葬場の職員になる道を選んだ。第1話では、下駄が初めて火葬を見学するのだが、その業務内容に衝撃を受ける。職員の仕事は、ただスイッチを押し、焼けるのを待つ……だけではない。「デレキ」という棒を使いながら、“ご遺体の姿勢を整える”必要がある。つまり、火葬中の遺体は、その過程で動くというのだ……。

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最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常 P07

最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常 P08

 ご遺体にはそれぞれの事情があり、もっと壮絶な火葬になるケースもある。たとえば、「Pあり」のご遺体には注意が必要らしい。「P」とは、ペースメーカーの略。心臓に疾患のある方の体内に埋め込まれていることがある。「Pあり」のご遺体は、なんと火葬中に大きな音を立て、破裂するのだという……。破裂による危険がある場合もあるそうで、実際下駄はあわや失明の危機に瀕したこともあるとのことだが、それでも「Pあり」のご遺体を嫌だと思ったことはないという。というのも、大変だと思いこそすれ、身内の闘病のようすを知る下駄は少し違う見方をしているのだ。作品の中で語られる下駄なりの“最後の最後に長い闘病生活のストレスを爆発させて、スッキリと成仏していくんだな”という「破裂」の解釈には、あたたかいものを感じ、なんだか救われる思いがした。

最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常 P017

最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常 P018

 感染症対策についても、リアルな現場の様子が描かれている。結核などの二類感染症の患者の場合は、マスクとゴム手袋を装着して火葬を行う。ご遺体は息をしないが、動いたときに肺の中の空気が出てきて感染することがあるからだ。さらに、新型コロナウイルス患者の場合は、より厳重な対応が必要になる。職員は、防護服を着て汗だくになりながら火葬をするそうだ。

最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常 P79

最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常 P80

 本作にはたくさんのご遺体が登場する。水死体など特殊状況でなくなったご遺体や、身寄りのないご遺体、抗争で亡くなったご遺体……。死はすべての人間に平等に訪れるが、そこに至る道のりはさまざまだ。火葬場の職員は、それぞれのご遺体に寄り添い、適切な形でその人を見送る。大切な人とお別れした“あの日”を思い返しながら、かみしめるように読んだ。

文=中川凌(@ryo_nakagawa_7

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