人気グルメマンガやブレイクレシピ本の歴史から「家庭料理」の変化がわかる! 『ラクしておいしい令和のごはん革命』

暮らし

公開日:2021/11/10

ラクしておいしい令和のごはん革命
『人気レシピ本が教えてくれた ラクしておいしい令和のごはん革命』(阿古真理/主婦の友社)

 コロナ禍で、自宅で過ごす時間が増えた今日このごろ。自宅で食事を取る機会が多くなり、「日々の食事づくりはレシピ本に助けてもらっている」という人も多いのでは? そのレシピ本に目を向け、人気レシピ本の歴史を知ることで、「家庭料理」の変化を大きな視点から眺めてみようと試みる、画期的な“レシピ本の分析本”がある。『人気レシピ本が教えてくれた ラクしておいしい令和のごはん革命』(阿古真理/主婦の友社)だ。

 著者の阿古真理さんは、食を中心に、暮らしの歴史やトレンドについて執筆活動を続ける作家・生活史研究家。今回、料理レシピ本の老舗でもある出版社「主婦の友社」から刊行された本書は、平成、令和の時代をメインに、そのときどきに流行した料理、注目を集めた料理家などを約150冊のレシピ本を手がかりに紹介し、家庭料理の歴史とこれからを知ろうとするものである。

 本書ではまず、家庭料理の現場で何が起きているのかを、2010年代後半にテレビドラマ化された人気家庭マンガ『きのう何食べた?』(よしながふみ/講談社)などを題材に考える。

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『きのう何食べた?』では、中年の同性愛カップルを主人公に、彼らと周囲の人たちの食卓が描かれる。弁護士の筧史朗は、将来を案じてできるだけ安い食材をスーパーで買い求め、めんつゆも多用して「小松菜と厚揚げの煮びたし」などの料理をつくる。その史朗が訪ねる実家では、史朗の母が、老夫婦だけでは食べ切れない「とんカツ」をつくり、ひさしぶりにとんカツが食べられたとよろこぶ。史朗と大量売りの食材を分け合う主婦・富永佳代子は、調味液を煮立ててかたまり肉の外側だけに火を通す「超かんたん」ローストビーフを披露。史朗が勤務する法律事務所の所長・上町美江は、息子の妻と折り合いが悪く、誰にも気をつかわず肉まんをほおばるひとり暮らしの夕食を楽しみにしている。登場人物それぞれの食卓から、ライフスタイルや世代の違いが浮かび上がってくる作品なのだ。

 この例を皮切りに、マンガやレシピサイト、SNSなどのトレンドをたどり、人気のレシピ本をひもといていくと、その時代の家庭料理の姿がわかる。台所の担い手は、1990年の「男子も厨房に入ろう!」を略した『dancyu』(プレジデント社)創刊に象徴されるように、主婦だけでなく、男性やシングルにも広がってきた。インスタグラム発のボリュームサンド『沼サン』(沼夫、大沼由樹/宝島社)のブレイクは、インスタ映えする料理が流行した時代の影響もあったろう。現在、料理のプロに取材をして書かれた『家庭料理 100のきほん』(おいしい健康:編/マガジンハウス)が手に取られているのは、コロナ禍で自炊をはじめた人が、「料理をきちんと学びたい」と考えているからではないか。人気の料理家・SHIORIさん、山本ゆりさんのインタビューも掲載し、料理が好きな人はもちろん、レシピ本が好きな人も、食の流行に敏感な人も、しっかりと“満腹になれる”内容となっている。

 時代と家庭料理を知ることで、今、自分が食べている料理のルーツと、未来が見えてくる本書。読了後の食事では、食卓を新たな角度からも眺めて楽しめるだろう。

文=三田ゆき

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