東京郊外で発見された変死体とカルト教団の関係は? 誉田哲也の最新長編はセンセーショナルな復讐劇

文芸・カルチャー

公開日:2021/11/12

フェイクフィクション
『フェイクフィクション』(誉田哲也/集英社)

“東京”は大都会の代名詞のようなものだが、実際にそうなのは都心部だけ。電車や自動車で小一時間も西側に行くと、そこには緑豊かなベッドタウン、さらに秩父や甲斐に連なる多摩の奥深き山々がある。

 誉田哲也氏の新刊『フェイクフィクション』(集英社)で最初の事件が起こるのは、その地域にある東京都檜原村でのことだ。

 村に隣接するあきる野市、五日市警察署刑事生活安全組織犯罪対策課の鵜飼道弘警部補が本署当番――警察署内での泊まり当番にあたっていたその日、署内スピーカーが事件の発生を告げた。路上で首なし死体が発見されたのだ。傷口から人間が鋭利な刃物でスパッと切断したのが一目瞭然の変死体は、別の場所から運ばれたことも明らかだった。疑いようもない殺人事件だ。

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 さっそく捜査が始まり、警視庁捜査一課からも応援の刑事たちがやってきた。鵜飼はそのチームに入るが、何やら謎めいた行動を取る。どうやら彼は、事件について何かを知っているようなのだ。

 一方、東京市部の餡子製造工場で働く29歳の元プロキックボクサー・河野潤平は、アルバイトで入社してきた19歳の有川美祈に出会い頭の一目惚れをしていた。あどけなさが残る可憐な容姿、異様なほど口下手でおとなしい性格。「高校中退で格闘技も再開したばかりの半端者」で、自分に自信がない潤平は、美祈にアプローチする資格があるのかどうか悩んだのも束の間、やっぱり恋心を抑えきれずに帰宅する美祈の後をつけることにする。決してストーキング行為ではない、と己に言い聞かせながら。だが、その末に判明したのは美祈が「サダイの家」というキリスト教系新興宗教の関係者であるという事実だった。

 猟奇殺人事件とおっちょこちょいでお人好しの男の恋。なんの関連もなさそうな2つの出来事が「サダイの家」で繋がった時、物語は大きく動き始める。それは、愛する人を狂信に奪われた者たちの、復讐と贖罪の物語だった。

 今作の背景に大きく横たわるのは、いわゆる「カルト」と呼ばれる宗教団体である。過去、日本では数々の新興宗教が生まれ、信者を獲得してきた。もちろん、多くは人に生きる道を示し、心を救うものだっただろう。だが、一部の団体が洗脳で信者を縛り、社会問題を引き起こしてきたのもまた事実だ。

 荒唐無稽な教義、人権を蹂躙する教団生活。正常な思考力があれば拒絶するような要求に、大の大人が従う。そして、力のない子供や、脱退に協力しようとする善意の人々が犠牲になっていく。随所にちりばめられた謎を追っていくと、狂信の愚と、それを利用する悪意の恐ろしさをこれでもかと見せつけられる。だが、潤平のまっすぐな気持ちと、彼と共に戦う人々の真摯な願いが、物語に救いをもたらす。

 そして、タイトル。

fake:捏造する,でっち上げる,偽造する
fiction:虚構,作り事,絵空事,作り話,捏造

 最後まで読めば、重言にもなるこの題に込められた意味が見えてくるはずだ。それは、著者が現代社会に鳴らす警鐘として響いているのである。

文=門賀美央子

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