仲のいい幼馴染3人組の関係が、徐々に狂いはじめる。『破滅のカノジョ』の主人公レイコは、どこへ向かうのか

マンガ

公開日:2021/11/29

※本記事には刺激的な表現が含まれます。ご了承の上お読みください。

破滅のカノジョ
『破滅のカノジョ』(ひろせたくじ/KADOKAWA)

 好きな人の幸せを願い、身を引く――。それはしばしば“純愛”とされ、歌詞や映像作品のモチーフになる行為だ。

 でも、それは決して容易なものではない。相手のことを大切に思えば思うほど、その隣にいるのは自分がいい。熱のこもった視線を他の人に向けているところなんて、見たくもない。本当は、誰にも渡したくない。そんな風に思ってしまうのは至極当然のことだろう。

advertisement

 だからこそ、『破滅のカノジョ』(ひろせたくじ/KADOKAWA)を読みはじめたとき、主人公であるレイコがとてもピュアで、強い人なのだと感じた。でも、その感想はすぐにひっくり返ることになった。レイコが抱いている感情は“純愛”といった言葉で表現できるほどシンプルなものではなく、むしろもっと複雑でドロドロな欲望に塗れたものだったからだ。一体この作品はなんなのだろう? レイコはなにを望んでいるのだろう?

 本作は女子高生レイコの目線で語られていく。彼女には仲良しの幼馴染がいる。それがカズとユカリだ。家族同然の付き合いをしてきた3人はとても距離が近く、ちょっとやそっとでは壊れないような絆で結ばれている。しかし、いつしかそこに恋愛感情が芽生えてしまっていた。

破滅のカノジョ

 ユカリはカズに想いを寄せ、カズはレイコに好意を抱いている。そしてレイコ自身は、カズが好きなのだ。ところが、レイコは自分の気持ちに蓋をして、ユカリの恋路を応援する。幼馴染たちに幸せになってもらいたい――。まるで“純粋”とも言える想いを胸に。

破滅のカノジョ

 ここまでは、よくある三角関係のラブストーリーだ。ところが、本作は一筋縄ではいかない。レイコが身を引き、ユカリとカズの恋を応援する理由。それは「性欲をそそられるから」なのだ。

 レイコは、ユカリとカズがイチャイチャするたび、その様子を目にするたびに体の奥底に熱いものを感じる。これは性癖と言えるものなのかもしれない。好きな人が他の女と、しかも一番身近にいる女と触れ合っている。それを見るだけで、レイコは体の欲に呑み込まれていく……。

破滅のカノジョ

 フィクションの世界では「寝取られ」という言葉がある。これは「好きな人が他の誰かと性的関係を結ぶことに、性的興奮を覚える嗜好」を指すものだ。そしてレイコはまさに「寝取られ」の状況に興奮し、抗えないほどの快感を得てしまっている。

 ただし、それだけで驚いてはいけない。レイコが抱く欲望を“特殊なもの”と表現するならば、それはユカリやカズにも当てはまるからだ。彼らは彼らで仄暗い想いを胸に秘め、徐々に自らの欲望に忠実になっていく。どう考えてもその行く末は、破滅だろう。

破滅のカノジョ

 本作はその描写も相まって、ある種のホラーのようでもある。欲望に狂うレイコの表情、時折ユカリが見せる苛烈な言動、そしてレイコの気を引くためにユカリを利用するカズの思考……。どれもこれもタガが外れていて、まともな人間はひとりもいない。純愛を売りにしたラブストーリーのような雰囲気で始まった物語は、読み進めていくほどにサイコホラーの様相を呈し、最終的には笑えてくるくらいだ。しかし、その笑いは「面白いから」出てくるものではない。あまりにも恐ろしくて、「笑うしかない」のである。

 レイコたちはこのままどうなってしまうのか、まったく予想がつかない。だからこそこの物語がどこに帰着するのか、この目で確かめたい。それは「怖いもの見たさ」でもあるのだろう。久しぶりに“やばい”ものを見た。そんな読後感を味わいたいならば、手に取ってもらいたい。

文=五十嵐 大

あわせて読みたい