上杉謙信と武田信玄が現代の女子高生に転生! 戦国武将の百合マンガがこんなに尊いなんて……

マンガ

公開日:2022/2/16

戦国女子高生 龍と虎
『戦国女子高生 龍と虎』(いくたはな/竹書房)

 上杉謙信と武田信玄と言えば、5回にわたり川中島の戦いを繰り広げた永遠の宿敵。そんな彼らが、前世の記憶を持ったまま現代の女子高生として生まれ変わったら……? しかも、お互いに惹かれ合ってしまったら……!?

 いくたはなさんの『戦国女子高生 龍と虎』(竹書房)は、奇想と歴史愛、そして百合の尊さにあふれた創作コミック。SNSでも話題となっていた同作が、このたび書き下ろしを加え単行本化されることとなった。

「越後の龍」こと上杉謙信の記憶を持つ上杉龍は、現代に生まれ変わった女子中学生。前世でのライバル・信玄も現代に蘇ったと知り、彼女がいる中学校に単身乗り込んでいく。一方、「甲斐の虎」こと武田信玄の生まれ変わり・武田虎子は、前世の記憶を思い出せず、何をしても満たされない日々を送っていた。そんなふたりが出会ったことから、虎子の記憶が復活。その後ふたりは、同じ高校で再会を果たすことになる。

advertisement

戦国女子高生 龍と虎 p15

 かつては激闘を繰り広げた両者だが、いつしか過去の因縁を越えて惹かれ合っていくふたり。戦国の世では人と触れ合うことを厳しく律していた龍(上杉謙信)が、虎(武田信玄)と手が触れ合っただけで顔を赤らめたり、髪を切った龍に対して虎が「出家か」と冗談を飛ばしたりと歴史ネタを取り入れながら、ふたりの間に流れるゆるりとした空気を描き出している。

戦国女子高生 龍と虎 p39

 しかも、登場するのは上杉謙信と武田信玄のふたりだけではない。2章では武田軍の山本勘助と上杉軍の柿崎景家、3章では上杉軍の直江景綱と宇佐美定満にスポットが当てられ、それぞれの関係が描かれていく。もちろん、彼ら武将も女子高生として現代に転生。前世での因縁がもたらすヒリヒリとした緊張感を交えつつ、日常系の学園百合マンガのような雰囲気も味わえる作品になっている。

戦国女子高生 龍と虎 p102

戦国女子高生 龍と虎 p109

 見た目こそ現代風だが、言葉づかいが古風だったり、LINEやメールではなく銀杏の葉に言伝を書いたり、うたた寝している龍(謙信)の髪に花を飾ったりと、どこか雅やかな空気が漂うのも百合マンガというジャンルに合っている。さらっとした線で描く体温の低そうなキャラクター、情感を伝える視線の動きや指先の表情など、作者の表現力も秀逸だ。いくたさんは、これまで『夫を捨てたい。』『夫にキレる私をとめられない』などのコミックエッセイの分野で活躍していた方だが、創作ストーリーではよりのびやかに筆を走らせているようにすら感じられる。

 戦国武将がモチーフと聞くと、日本史が苦手な人はちょっと難しそうに感じてしまうかもしれないが、それはもったいない話。登場する武将についての紹介ページもあり、作中でも武将の逸話を解説してくれるので、歴史の知識がなくてもまったく問題なし。戦国の世に思いを馳せつつ、この尊い世界の一端に触れてほしい。

文=野本由起

あわせて読みたい