栞子さんの娘、扉子が高校生になって登場! 大人気「ビブリア古書堂」シリーズのシーズン2がいよいよ本格始動

文芸・カルチャー

更新日:2022/3/28

ビブリア古書堂の事件手帖
『ビブリア古書堂の事件手帖III ~扉子と虚ろな夢~』(三上延/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 北鎌倉の小さな古書店を舞台に、美貌の店主・篠川栞子が古書にまつわる謎を鮮やかに解き明かす「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ。第1巻の刊行からちょうど11年後にあたる2022年3月25日、記念すべき10冊目となる最新刊『ビブリア古書堂の事件手帖III ~扉子と虚ろな夢~』(三上延/メディアワークス文庫/KADOKAWA)が発売された。

 栞子とそのパートナー、大輔の間に生まれた扉子が新たに加わったシーズン2の、第3弾だ。

 今回の舞台は藤沢の古書即売会場だ。父の大輔を手伝ってビブリア古書堂の店員として参加した扉子は、自分が通う高校の新1年生となる少年、恭一郎と出会う。恭一郎もまた、祖父の営む古書店の臨時アルバイトに駆り出されていた。

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 3日間にわたって開催される即売会で、ふしぎな出来事が次々に起こる。

 初日は、映画パンフレットのビニールカバーに書き込まれたアルファベットの謎。2日目は、樋口一葉関連の書籍に挟まれたレアナンバーの五千円札をめぐる騒動。そしてトリとなる最終日は、夢野久作『ドグラ・マグラ』の初版本が恭一郎の人生をゆるがす事態を引き起こす。

 卓越したミステリー要素と魅力的なキャラクター陣。それに加えて本シリーズが人気を集めた理由のひとつは、古今東西のさまざまな本を取り上げ、その素晴らしさを紹介しているところだろう。誰もが知る有名作家の代表作から知られざる作品。また、現在の文学シーンでは埋もれている作家や作品に焦点を当て、再評価のきっかけを数多くつくってきた。

 今作でも、各章のメインとなっている映画『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』、樋口一葉が生前に世に出した唯一の著書『通俗書簡文』、そして日本探偵小説史上、三大奇書のひとつと呼ばれる『ドグラ・マグラ』を筆頭にいろいろな本が登場。扉子や栞子が情熱的な語り口で紹介する部分は、なんとも楽しい。

 なによりもわくわくするのは、今回から完全に扉子が主人公になったことだ。

 高校生になった扉子は、一見して母の栞子そっくりの顔立ちと頭脳、そして熱烈な読書家である一方、父の大輔を思わせる度胸のよさも持ち合わせている。

「扉子シリーズ」ともいえるシーズン2のI、II巻での彼女はまだ幼くて、実質的な主人公は栞子だった。あまりにも本ばかりに興味を向ける娘は、生身の人間の気持ちを思いやれない子になってしまうのではないか……。

 と、かつての自分を顧みて、栞子は心ひそかに案じていた。しかし、そんなことはなかった。

 16歳の扉子は、自分が少々度を過ぎた本好きであるのを自覚したうえで、本を介して人とつながり、世界を拡げようとしている。そこには両親の影響がたしかに感じられる。今回、栞子の登場場面は多くはないけれど、扉子を通して彼女の存在の大きさが感じられる。むろん、娘を見守る大輔の成熟した姿も。

 さらに、栞子の母であり扉子の祖母である智恵子も、とうとう日本に帰還。相変わらずの底知れなさで、70歳を過ぎてもまるでキャラクターが丸くなっていないところが、むしろ素敵だ。

 栞子と大輔のコンビから、扉子と恭一郎のコンビへ。

 新たな世代の新たな事件手帖が、いよいよ本格的に始動しそうだ。

文=皆川ちか

『ビブリア古書堂の事件手帖III ~扉子と虚ろな夢~』詳細ページ
https://biblia.jp/

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