言葉遊びはこんなにも自由でいい! Z世代の川柳人が紡ぐ「ネオ川柳」がクセになる

文芸・カルチャー

更新日:2024/2/15

ふりょの星
ふりょの星』(暮田真名/左右社)

 五・七・五の中に身近な人間模様や社会風刺を詰め込む川柳は、江戸時代中期から日本人の間で親しまれてきた定型詩。

 そう聞くと難しそうに思えるかもしれないが、俳句のように季語をいれたり、「けり」「かな」「や」といった切れ字を含める必要がなかったりと、個性を存分に詰め込めるため、自分らしさが叫ばれる今という時代にマッチしており、世間の注目を集めることも多い。

 現に、第一生命保険株式会社が毎年公募している「サラリーマン川柳」や、公益社団法人 全国有料老人ホーム協会が発表する「シルバー川柳」にクスっとさせられた人は多いはずだ。

 そんな川柳の味わい深さを、これでもか!というくらい感じられるのが、斬新な句が満載の『ふりょの星』(暮田真名/左右社)。本作には、川柳アンソロジー『はじめまして現代川柳』(小池正博:編著/書肆侃侃房)で最年少柳人として紹介された、著者の暮田真名氏の“ネオ川柳”がたくさん掲載されている。

 言葉を自由に操る暮田氏が綴った、魅惑の250句は「これぞ川柳の真骨頂だ」と思えるほど自由で味わい深い。

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謎の中毒性がある「寿司川柳」が頭から離れない!

 本作を開いてまず目に飛び込んでくるのが、お寿司を題材にしたツッコミどころ満載な川柳の数々。著者はなんと、寿司縛りで20句以上もの川柳を制作しているのだ。

 詠まれている句は、どれもインパクト大なのだが、個人的に頭から離れなくなったのが、「一体どんな状況なのだろう…」と想像したくなる作品たちだ。

“良い寿司は関節がよく曲がるんだ”

“アサガオに寿司を見せびらかしていい?”

“寿司と見紛うほどの夕映え”

 また、いち寿司好きとしては、五・七・五のリズムにのせた小さな絶望に心がキュっと締めつけられもした。

“谷底に寿司が落ちたら嫌でしょう”

 盛り込まれている言葉に関連性がなさそうなのに、情景が浮かんでくるような不思議な世界観を形成しているからこそ、著者の川柳は、なぜか頭にこびりついて離れなくなる。

 これからお寿司を目にする時は、これらの川柳を思い出してニヤッとしないように気を付けたい。

どこかエモくてストーリー性があるから美しい

笑えるだけでなく、どうしてこんなにもエモさを感じるのだろう。本作には、そう思わせられる川柳も多くしたためられており、思わず唸ってしまった。

“太陽の穴に夜風を通そうよ”

“桜で燻す交換日記”

“壊れてもいい銃声だから”

 著者が綴るそれぞれ全17文字の言葉には、どこか余韻があるように思えてならない。心で言葉を味わえる“究極の言葉遊び”が、ここに繰り広げられているのだ。

 また、収録作の中には、ストーリー性を感じさせる句も多数。

“かけがえのないみりんだったね”

“アルミホイルに包まれたままの人がいる”

“きみのおなかでお金をなくす”

 句にあるバックグラウンドやオンリーワンなストーリーを各々で想像し、その世界観に浸る……。そんな楽しみも、本作の川柳は与えてくれるのだ。

 なお、あとがきからは川柳と真摯に向き合ってきた著者の想いがうかがい知れ、涙腺が緩みもする。

川柳は私から何も聞き出そうとしません。私の性別も、だれと親しく付き合っているかも。いままでに経験したかなしみやよろこびも、なにを憎み、なにを大切にしているのかも。(中略)それで私は安心して書きはじめることができたのです。

 まるで、自ら語りかけるかのように想いや感性を素直に詰め込んできた著者。だからこそ、その手から生み出される句が多くの人の心を掴むのだろう。

 人間ではなく、真っ白な紙を相手にするから自由に語れることがある。そして、自分の感性や想いは、とことん自由に表現していい――。そんなことも感じさせてくれる本作を手に取れば、あなたも川柳の世界をのぞき見て、一句詠んでみたくなるかもしれない。

文=古川諭香

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