森鴎外『山椒大夫』あらすじ紹介。騙され売り飛ばされ、一家離散。「離れていても忘れない」母の子を想うラストシーンに涙!

文芸・カルチャー

公開日:2023/6/12

山椒大夫』と聞いて安寿と厨子王の名を想起する方もいるのではないでしょうか。母が子を想い、唄を口ずさむシーンに心を揺さぶられた方もいることでしょう。今回は平安時代後期を舞台にした『山椒大夫』のあらすじを紹介します。

山椒大夫

『山椒大夫』の作品解説

『山椒大夫』は、1915年に発表された森鴎外の代表作の一つです。中世の芸能「説経節」の有名な演目『さんせう太夫』が原作で、封建制度から資本主義制度への移行や発展を盛り込むなど鴎外オリジナルの脚色を加えて執筆されました。

『山椒大夫』の主な登場人物

陸奥掾正氏:陸奥国の役人。

安寿:正氏の長女。

厨子王:安寿の弟。

山椒大夫:丹後で広大な土地と召使いを所有している長者。

藤原師実:関白。

『山椒大夫』のあらすじ​​

 陸奥掾正氏(むつのじょうまさうじ)は12年前に筑紫(福岡)へ行ったきり帰ってこない。姉娘・安寿とその弟・厨子王は、母に連れられて正氏を尋ねる旅に出ることになる。道中、山岡太夫と名乗る船乗りに騙され、安寿と厨子王は丹後(京都)に、母は佐渡(新潟)に売り飛ばされてしまうのだった。

 安寿と厨子王は、丹後の長者・山椒大夫のもと過酷な肉体労働に耐え忍ぶ。しかし父がいるはずの筑紫国までは遠く、故郷にも帰れない。安寿は厨子王だけでも逃がすことにした。

 別れ際、安寿は厨子王に、母から託された大事な守り本尊を渡す。その後、追手が別れの場を通りかかると、下方の沼のほとりに安寿の履物だけが残されていた。

 やがて厨子王は京都・清水寺で藤原師実(ふじわらのもろざね)に出会う。師実は妻の姪の病気平癒を祈願しに来ていたのだ。厨子王が持つ守り本尊を見て、父親が確かな家柄であることを確信。さらに厨子王が守り本尊をもって姪の病を治したことに感謝する。

 師実は恩に応えようと正氏の居所を見つけるが、正氏は既に亡くなっていた。厨子王は父の死を深く悲しみ、成人後は名前の一字を受け継ぎ「正道」と名乗るようになる。師実の取り立てもあって丹後の地方役人に出世。貧しさ故に虐げられることのないよう、丹後では人の売り買いを禁止する法律をつくる。姉の入水自殺を知ると尼寺を建立し、死を悼むのだった。

 ある時正道は、母が佐渡島に送られたことを知る。現地に行くと粗末な衣服を身にまとった盲目の老女を目にする。老女は安寿と厨子王を想う唄を口ずさんでいた。

 安寿の形見である守り本尊を老女の額に押し付けると、老婆の両目の視力が回復。再会を果たした親子は抱き合って喜ぶのだった。

<第73回に続く>

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