ナイツ塙が、親から譲り受けて恐怖した本。「俺が悪いことをすると、地球が滅亡するんじゃないかと思ってた」【私の愛読書】

マンガ

更新日:2023/6/17

塙宣之さん

 このたび、個性的すぎる義父との同居生活を綴ったエッセイ『静夫さんと僕』(徳間書店)を上梓した、漫才コンビ「ナイツ」の塙宣之さん。そんな彼の愛読書は、40代男性の共感を誘うこと間違いなしの3作品。それぞれの読みどころについて、解説していただいた。

取材・文=野本由起 撮影=島本絵梨佳

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連載を休まない姿勢に感銘を受け、毎日1本漫才のネタを作ったことも

──今回、塙さんには3冊の愛読書を挙げていただきました。『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(秋本治/集英社)、『魁!!男塾』(宮下あきら/集英社)、『ノストラダムスの大予言』(五島勉/祥伝社)というセレクトです。

塙宣之さん(以下、塙):ひどいラインナップでしょう(笑)。

──ひとつずつ、詳しいお話を聞かせていただけますか? まずは『こちら葛飾区亀有公園前派出所』から。塙さんは、『アメトーーク!』の「『こち亀』芸人」でもリーダーをされていましたよね。

:そうなんです。やっぱり『こち亀』は好きですね。『こち亀』には、すべてが詰まっていますから。情報もあるし、人情もあるし、心の機微もある。何よりもマンガとして面白いじゃないですか。

 あと、『こち亀』って連載を一度も休んだことがないんですよ。すごいことですよね。毎週楽しみにしている読者のために、絶対休まないという秋本先生の姿勢に感銘を受けました。僕は、漫才のネタを作ってない時期があったんですよね。毎日1本漫才を作るくらいじゃないと売れないなと思ったことがあって。その時に、毎週休まない『こち亀』の姿勢から活力をもらいました。

 ちゃんとお会いしたことはないんですけど、秋本先生は人柄も素晴らしいみたいです。僕は、マンガ家・ゆでたまごで作画を担当している中井(義則)先生と仲がいいんですけど、中井先生は「秋本先生がいなかったらマンガ家を続けられなかったと思う」って言ってました。若い頃はいろいろとつらい思いもされたようですが、秋本先生だけはものすごく優しくて「頑張るんだよ」って励ましてくれたそうです。中井先生の恩人なんですよね。それを聞くだけでも、「秋本先生、めちゃくちゃいい人だな」と思うじゃないですか。

──作品そのものも秋本先生の姿勢も、すべて含めてお好きなんですね。

:普通に考えて、交番にいる警察官の話を毎週描けます? 1話完結で、毎回いろんなアイデアが詰め込まれていて、ネタも全然違う。それがすごいですよね。両さんにはゲームとかフィギュアとかゴルフとか趣味がたくさんあって、そういうものをマンガですべて描いてくれるから、こっちもいろいろな世界を知ることができます。「昔、G.I.ジョーっていうフィギュアがあった」なんてことも、当時の子どもたちはみんな『こち亀』から学びましたから。

──その時々の流行を取り入れているので、確かに情報源としても役立ちそうですね。

:そうなんですよ。両さん自身は年を取らないんだけど、いつのまにか両さんの携帯電話がスマホになっていたりして。もともと両さんって、何にもできない、すぐに拳銃を撃っちゃう警察官だったのに、いつのまにかハイテクになっていてパソコンを使って商売したりするのも面白い。本当にすごいマンガですよね。

ビルくらいあった身長が、いつのまにか縮んでる。ツッコミを入れながら読むのが新鮮

塙宣之さん

──続いて『魁!!男塾』。実は、塙さんにタイトルを挙げていただき、初めて読んだのですが、こちらもすごいマンガですね。

:めちゃくちゃ面白いでしょ? もうおかしいじゃないですか。最初に男塾に入ると、ひたすら直進しなきゃいけないトレーニングがあるんですよ。家があっても、ぶっ壊して直進しなきゃいけない。あとは、人が人を抱えて橋を作る「万人橋」とかね。

 しかも、面白い場面を面白いように見せないところが面白い。登場人物がツッコミを入れちゃうと、つまんないんですよ。「なんだよ。これ」って、読んでるこっちがツッコむものなんですね。当時の子どもたちは、みんなこの手法にやられたんじゃないかな。「こんなこと起きないだろう」ってツッコみたくなることが、男塾ではよく起きるんですよ。今思うと、宮下先生もそれを狙っていたんじゃないかと思いますね。

──塙さんは、当時の連載をリアルタイムで読んでいたのでしょうか。

:そうですね。リアルタイムで読んでました。

──なにか影響を受けたことはありますか?

:いやいや、影響を受けたり、ためになったりすることなんて全然ないです(笑)。ギャグですから。しかもギャグマンガじゃないのに、ギャグになっているのが面白いんですよね。

──作画はものすごく緻密で、迫力もありますよね。

:そう。バトルマンガの先駆けじゃないかなと思います。ただ、宮下先生が面倒くさくなっちゃうのか、途中でキャラが変わるんですよ。それがすごく面白くて。有名なのは大豪院邪鬼。男塾には一号生、二号生、三号生がいて、三号生筆頭という男塾総代が大豪院邪鬼なんです。最初に登場した時は、邪鬼の身長がビルくらいあったんですよ。でっかいビール瓶を数人で持ち上げて、邪鬼に注ぐ場面なんかもあって。一号生の富樫源次が邪鬼の髪の毛につかまって、振り回されるシーンもありましたね。

 でも、多分描くのが大変になってきたんでしょうね。戦う大会もあるから、そんなにでかいと成立しないというのもあって、どんどんちっちゃくなって、最終的に富樫とほとんど同じくらいの大きさになりました(笑)。さすがに「これ、大きさがおかしくないか?」と当時みんな思ってたんですけど。宮下先生も何か説明しなきゃいけないと思ったのか、ある時突然「大豪院邪鬼、かつて大きく見えたのはこのオーラがなせるものだったのか」みたいな一文を入れて終わらせてました(笑)。

──オーラで大きく見えていた(笑)。

:「いや、富樫が髪の毛につかまってただろ」って、みんな思いましたけどね。そういうのが非常に多くて面白いんです。

 その後、「天挑五輪大武會(てんちょうごりんだいぶかい)」という最強の団体を決める大会があって。男塾チームが戦ったのが、ファラオ率いるエジプトの団体。ファラオもめちゃくちゃ強くてカッコいいキャラクターなんですけど、男塾チームに倒されて、「お前らと一緒に男を学びたい」って男塾に入るんです。でも、最初は神々しかったファラオがだんだん雑な扱いになってきて、最終的に下っ端塾生みたいな感じで「今日もかわいい女子が来たぞぉ!」って(笑)。「え、ファラオってエジプトチームのボスで神々しい人じゃなかったの?」っていうのがすっごいおかしくて。もう、すべてがめちゃくちゃ面白いんですよ。サンドウィッチマンのふたりも、このマンガが大好きなんですよね。

俺が悪いことをすると、地球が滅亡するんじゃないかと思ってた

塙宣之さん

──では、最後に『ノストラダムスの大予言』についてお願いします。

:今日、この本を持ってきたんですよ(と、カバンから取り出す)。もともと親が持っていたものをもらったんですけど。どういう教育だったのか、小さい頃に親から「1999年に人類が滅亡するんだ」と言われたんです。あんまり勉強しない子どもだったから、親がこういう本で勉強させようと思ったのかもしれないですね。子どもの頃はこういう話題に敏感でしたし、読んでみたら滅亡することばかり書いてあって超怖かった。今読むと、伝染病についての予言もあったりするみたいですね。今、都市伝説が流行ってますけど、その先駆けみたいなものだなと思います。

 もう1冊、同じ五島勉さんの本で『カルマの法則』(祥伝社)というのもあるんです。この2冊はつながっていて、要は「人類の滅亡を、こうやって転換する方法があるんだ」と書いてあるんですよね。『カルマの法則』は、前世で悪いことをすると生まれ変わる時に何か悪いことが起きる、すべてのことには原因があると述べている本です。2冊セットで読むと、すごく面白いんですよね。

──『ノストラダムスの大予言』を読んだ人の中には、「どうせ1999年に人類が滅亡するなら、もう勉強しなくていいや」と考えた人もいたそうです。塙さんはそうではなかったんですね。

:この2冊には、人類滅亡も日々の行いで変えられるんだと書かれているんですよね。そういう本で教育されちゃったから、悪いことをしてはいけないという気持ちが強くなりました。「俺が悪いことしちゃったら、地球滅亡するんじゃないか」みたいな。だから、中学生の頃に周りが煙草を吸い始めても、「俺が吸っちゃうと1999年に地球が滅亡しちゃうから」と、絶対に吸いませんでしたね。

──塙さんにとっては、良いほうに作用したんですね。

:そうですね。とりあえず1999年7月までは真面目に生きようって。もう絶対悪いことしちゃいけないんだと思っていました。僕のおかげで人類が滅亡せずに済んだんですよ(笑)。

──1999年7月を過ぎてから、なにか変化したことは?

:ないですね。煙草もいまだに吸わないですし。

──今も良くないことをすると、来世に影響するという考えは残っていますか?

:そうですね、今もどこかにあるかもしれない。『カルマの法則』によると、自分が良くない発言をしたり、人を傷つけてしまったりする理由をたどっていくと、「九識」が関係しているそうなんです。「九識」には、眼識、耳識とかいろいろあって、中でもカルマに関係するのが「阿頼耶識(あらやしき)」。前世でやってしまったことがプログラムとして組み込まれて生まれてくるから、相手に対して良くない発言をしてしまい、自分はこういうことができないと悩んじゃう。だけど、それは変えることができるという本なんです。

 ……って、今の俺、静夫さん(塙さんの義父。こちらの記事を参照)みたいだったな(笑)。自分がすごく怖かった。でも、相当前の本ですけど、これは面白いですよ。

塙宣之さん

──普段、あまり小説は読まないのでしょうか。

:営業が多かった2008年頃は、一番読んでいたかもしれないです。移動が多いし、今みたいにスマホで動画を観ることもなかったので、新幹線に乗っている間、時間をつぶす方法が本しかなかったんです。

──当時はどんな本を読んでいたんでしょう。

:駅の売店で売っている、東野圭吾さんの小説とかを読んでいましたね。ただ、今はスマホが出てきて、本も読まなくなっちゃいました。それでも、ラジオのゲストで来た方から本をいただいたり、ゲストの本を事前に読んだりするので、もしかしたら他の人よりは読んでいるほうかもしれない。

 スピードワゴンの小沢(一敬)さんはよく本を読むんですけど、いろんなことをやりすぎちゃって、一度新幹線で見かけた時はスマホでNetflixを観ながら、本を読みながら、『週刊ベースボール』を広げてた(笑)。絶対頭に入らないでしょ。でも、時代的にそうなっちゃうんでしょうね。

──塙さんは近著の『静夫さんと僕』以外にも、『言い訳 -関東芸人はなぜM-1で勝てないのか-』(集英社)などの著作があります。小説を書いてみたい気持ちはありますか?

:いやいや、僕には無理ですね。バカリズムさんみたいに自分で書ける方は、すごいなと思います。僕は読む側でいいですね。

<第22回に続く>

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