あれから10年経ったのにDIOの呪縛から逃れられられない元配下・マライア/クレイジーDの悪霊的失恋 ージョジョの奇妙な冒険よりー②

文芸・カルチャー

公開日:2023/7/8

「ったく――」

 ホル・ホースはまた迷宮の廊下に出た。するとそこにマライアが待っていた。

「会えた?」

「まあな。説得にゃもう少し時間が掛かりそうだから、ビールとかもらえねーか。もちろん金は払うからよ」

 ホル・ホースがそう言っても、マライアはその場から動かず、彼のことをじっ、と見つめてくる。

「なんだよ? さすがのおれも、旦那がどっかに隠れている家で不倫はできねーぞ」

 冗談めかして言ったが、マライアは真顔のままで、

「あんた――今でも夢とか見る?」

 と質問してきた。

「なんの夢だ?」

 ホル・ホースがそう訊き返しても、マライアは何も言わずに、彼を見つめ続ける。ホル・ホースは、ふう、とため息をついて、

「――悪夢にうなされてる、って言って欲しいのか? そこまでヒドかねーよ」

「でも、起きたときに冷汗をびっしりかいてる、みたいなことはあるんでしょう? 夢に出てくるんでしょう、今も――DIOの姿が」

「…………」

「あたしも時々、夢の中で必死であやまっている――DIOが出てきて〝マライア、何をグズグズしている。はやくジョースターどもを始末してこい〞って命令するのよ。あたしは何も言い返せずに、ひたすらにすみませんすみませんってあやまり続けるだけ――何も言えないのよ。何も」

「…………」

「どうしてなのかしら。もうあいつが死んでから十年も経っているのに――心酔していた頃の印象なんか、後からスピードワゴン財団の人たちから聞かされたあいつの過去の所業の数々の話で、すっかり消し飛んで嫌悪しか残っていないはずなのに――それでもまだ、あいつのことを夢の中では〝DIO様〞って呼んでる……」

「…………」

「今でも信じられない。あいつって本物の〝吸血鬼〞だったんでしょう? いや、そりゃあ十字架もニンニクも効かないから、伝説の魔物そのものじゃあないけど――でも百年以上も若々しいままの不死身の肉体と、他人から生命を吸い取るっていう性質を持っていた……どうしてあんな不気味なヤツに、あたしたちって忠誠を誓えていたのかしら?」

「……別に魂まで売っていた訳じゃあねーだろう、おまえもおれも。ヤツが途方もなく強かったから、それに便乗しようとしていただけだ。単なる打算だ」

「どうかしら――あんた、自信を持って言える? DIOに魅了されたことなんか一度もありません、って。あたしは無理――ジョースターさんたちと戦ったときも、彼らの不屈の精神に圧倒されながらも〝でもこいつらではDIO様に遠く及ばない〞って決めつけていた――」

 マライアは力なく首を横に振る。

「――そんなことはなかったのに、ね。ジョースターさんたちは、犠牲を出しながらもDIOを倒した。そしてあたしたちもヤツの呪縛から解放された……そのはずなのに」

 ぶるるっ、と彼女は身震いして、自分の身体を自分で支えるように抱いた。

「まだあいつが、すぐ近くにいるような気がしてしょうがない……路地を曲がると、そこに立っているような気がして仕方がない――」

「あんまり深く考えんなよ。おれたちは助かった、運が良かった。それでいいじゃあねーか」

 ホル・ホースは極力、軽薄そうに言おうとしたが、しかしその語尾が微かに震えていた。

 そのとき――彼らの背後の扉が開いた。

「ン?」

 とホル・ホースが顔を向けると、そこにはボインゴが立っていた。ドアに半分身を隠して、びくびくしながらも自分から出てきた。

「どうしたボインゴ――ははあ、新しいページがあらわれたな?」

 ホル・ホースが訊くと、ボインゴはうなずいて、

「へ、変な地図が出てきた――知らないところで――」

 と言った。どれどれ、とホル・ホースは差し出されたマンガ本を受け取って、ぱらぱらとめくる。

 さっきはなかった絵と文字が、白紙だった頁に浮かび上がっていた。そこに記されている地点を、ホル・ホースは読み上げる。

「ええと――この位置はユーラシア大陸の東端の列島――日本だな。東北の方で――その中心都市がある辺りじゃなかったか。名前は確か――」

 一九九九年のM県S市――そこにホル・ホースの目的とするものが紛れ込んでいるのは間違いなさそうだった。

<第3回に続く>

本作品をAmazon(電子)で読む >

本作品をebookjapanで読む >

本作品をコミックシーモアで読む >

本作品をBOOK☆WALKERで読む >

あわせて読みたい