芥川龍之介『河童』あらすじ紹介。安楽死を望む赤ちゃん!? 解雇された労働者は食肉に加工!? 迷い込んだ河童の国は…

文芸・カルチャー

公開日:2023/7/5

 芥川龍之介は35年という短い生涯でしたが、日本の文学史上に多大なる足跡を残した大正時代の小説家で、近年は記念館の創設も予定されている、日本を代表する文豪です。『河童』は芥川の晩年の傑作であり、読んでみたいという方も多いのではないでしょうか。今回は、芥川龍之介の『河童』について、作品解説と登場人物、あらすじをご紹介します。

河童

『河童』の作品解説

『河童』は、1927年3月に雑誌『改造』上に発表された、芥川龍之介の短編小説です。著者の晩年の傑作として現在でも高く評価されており、河童を物語に登場させ、当時の日本社会や人間社会を痛烈に批判する内容となっています。

 この作品を発表した年の7月24日に芥川龍之介は服毒自殺を遂げます。命日の7月24日は「河童忌」と呼ばれていますが、それはこの作品に由来するものです。

『河童』の主な登場人物

僕(第二十三号):本作の主人公。精神病院で入院生活を送っている。河童を追いかけていくうちに、河童の世界に迷い込む。

河童たち:河童の国の住人。人間社会とは異なった倫理観で社会が構成されている。

トック:河童の詩人。僕の友人になるがピストル自殺を遂げる。

『河童』のあらすじ​​

 物語は入院生活を送っている精神病患者の「第二十三号」が、誰にでも話すという会話の内容を記録したものとして進められる。

 3年前のある日、後の第二十三号こと「僕」は穂高岳に登山をしに出かけた。その途中で僕は河童に遭遇する。僕は河童を追いかけるが、深い闇のなかへと真っ逆さまに転げ落ちて、河童の国に迷い込んだ。

 そこは、人間社会へのアイロニーを想起させる異様な倫理観がまかり通っている世界だった。出産時に胎児が望まなければ産まれなくてもよい。悪性遺伝の撲滅を目的に、不健全な者は健全な者と結婚をする。女性主体の恋愛。危険とされた音楽の禁止。解雇された労働者は食肉にされる。言葉による責め苦で執行される死刑……。

 その後、僕は、河童の世界でさまざまなことを見聞きしながら、幾人かの河童と親しくなる。その中のひとりが詩人のトックであったが、彼のピストル自殺を機に気分が落ち込み、河童の世界での生活に憂鬱さを感じるようになる。そして僕は街のはずれの年老いた河童のもとに行き、出ていく道を教えてもらい、河童の世界を出る。

 こうして帰還を果たした僕であったが、人の体臭に違和感を抱くようになっており、人間社会に馴染むことができなくなっていた。そして、河童の世界に戻ろうと失踪したところを当局に捕らえられ、精神病院に入院させられてしまう。

 そこで第二十三号という番号を与えられた僕は、河童たちの訪問を受けるうちに現実と空想の境界が曖昧になっていき、自殺したトックの全集の一冊であるとして古い電話帳を開き、そこに描かれているはずのない詩を大声で読むのであった。

<第83回に続く>

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