美術の世界に必要不可欠なアイテムは「見る力」と「描く力」。この2つの特徴を解説!/美術の進路相談②

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/24

画家ってどんな人?

美術の進路相談

一枚の絵で人を魅せる「炭鉱のカナリア」

 「画家のイメージってどんな人だと思う?」と中学生にたずねると、主に「ピカソとゴッホ」と返ってきます。たしかにこの二人は、ぼくたちの画家像に強烈な印象を与えています。さらに画家が、「変人・天才・貧乏・欲望・金・死……」といった刺激的なイメージにくるまれているのも、彼らの影響なのかもしれません。実際のところ、画家というのは社会にとってどんな存在なのでしょう。

 ぼくの恩師は、よくこんなふうに表現しました。「画家とは、炭鉱のカナリアである」。

 「炭鉱のカナリア」とは、炭鉱夫が採掘をする際に、最前列に連れていく小さな鳥のこと。採掘中にガスが発生した場合、その毒性をいち早く察知し、美しい声で鳴いて危険を知らせます。つまり社会の潮流や時代の変化に誰よりも敏感で、世界を象徴したり賛美したり、時に警鐘を鳴らしたりする存在が画家である、というのです。

 しかし職業としての画家は、カナリアの声のように可憐で美しいばかりではありません。絵を描いて売るという生活が、大変困難であることはたしかです。単純にひと月の収入を計算すると、「一枚の絵の値段×売れた枚数-材料費や展示費」。一度に仕上げる絵の枚数にも限りがあるため、絵による収入が微々たるものであることがわかります。また、「この絵にどれくらいの価値があるのだろう」と判断し、見合った金額を出す買い手の目も重要です。景気が悪ければ「絵にお金なんか払えない」という風潮も生まれるため、貧乏を経験する画家が多いのも事実。画家の報酬とは、「その絵の価値がどう判断されるか」と同じなのです。

 しかし、こんなにも不安定でつかみどころのない画家という職業が、現代まで消失することなく受け継がれていることは不思議です。そもそも人がなぜ絵を描くのか、という謎はまだ解明されていませんが、今に名を知られる炭鉱のカナリアたちは、絵を描く衝動に突き動かされて絵筆を握ってきたのです。お金がなかろうが酷評されようが、一枚の絵に嬉々として向き合い、不思議と他者の胸を打つ力をもつ人々。こんな彼らの存在は、人間が論理や言葉のみで生きることに満足する生物ではないらしいことを、再確認させてくれます。やはり画家とは、美や調和の世界に人を立ち返らせてくれる「炭鉱のカナリア」だといえます。

美術の進路相談

<第3回に続く>

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