美術の世界で「発掘する人」とは? 創作活動で大きな役割を果たしてくれる縁の下の力持ち/美術の進路相談③

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/25

美術の進路相談』(イトウハジメ/ポプラ社)第3回【全5回】

「絵を描くことを仕事にしたい」と思っている、美術大学や専門学校への進学を考えている人は必見! 大学の教壇に立ち美術を教えているイトウハジメ氏が執筆した『美術の進路相談』は、画家や漫画家、イラストレーターなど、絵を描く職業についての解説はもちろん、絵を描き続けるために大切なポイントをマンガやイラスト、文章でわかりやすく紹介します。昔は絵を描いていたけどが今は描かなくなった人や、絵を描かないけど鑑賞することは好きな人など、美術を趣味にしている人にもおすすめです!

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美術の進路相談
『美術の進路相談』(イトウハジメ/ポプラ社)

発掘する人

美術の進路相談

描き手に出会い、描き手を育てる

 美術の世界には、自ら創作することはなくとも、描き手と直接かかわり、隠れた才能や魅力を育てることに長けた人たち、すなわち発掘者がいます。いわゆる、「見る目がある」人です。

 この発掘者たちは非常に好奇心旺盛で行動的。あちこち動き回り、魅力的な種が落ちていないかに気を配っています。また、「こんなものを作りたい」「こんな描き手に出会いたい」とアンテナをはっています。

 アンテナがピコンと反応し、「あっ、この絵は良い!」と感じると、彼らは描き手に直接会いに出かけます。そして描き手と話をし、その人柄や能力、長所と短所、魅力的な性質についてよく観察をします。その後、「こんな作品を作ったらきっと素敵!」と判断をし、その創作をサポートしていくのです。しかし、その仕事内容は実に大忙し。企画を練り、スケジュールを組み立て、予算を見積もり、宣伝をし、時に描き手を叱咤激励します。美術の世界において何かを作り上げようとするとき、裏で舵取りをし、創作に大きな役割を果たしているのがこの発掘者なのです。

 彼らにとって大切なのは、日々見る目を養うことと、発掘するためのアンテナを常にはっておくことです。また、個性的な描き手たちとかかわりながら、チームをつくって引っ張っていくのですから、全体を見通すことのできる視野の広さも必要です。描き手を誰よりも理解しながら、進むべき方向にしっかり歩みを進める力強さも求められます。

 美術の世界で大変なリーダーシップを発揮する、この知られざる縁の下の力持ち。描き手と強い信頼関係で結ばれる一方、ひとたび亀裂が入れば作品の完成が揺らぐ事態も……。だからこそ、発掘したものに責任をもち、育てることのできる、愛情とバランス感覚が求められます。この世に面白い作品が生まれるとき、必ず描き手と発掘者のかけ算があるのです。

美術の進路相談

発掘の代表的なお仕事は?

 絵の描き手を発掘する代表的なお仕事といえば、編集者やキュレーターなどが挙げられます。

 編集者とは、主に出版業界をイメージしますが(サザエさんに登場する、伊佐坂先生の原稿を待つノリスケさんが思い浮かびますね)、WEB媒体による発信が多い現代では、編集の仕事も多様なメディアにわたります。

 一方で「キュレーター」とは聞きなれない言葉ですが、美術館や博物館などで、展示する作品の企画から運用までの全般を請け負うお仕事です。日本では「学芸員」と呼ばれ、大学などで資格を取得できます。日本の学芸員は作品の管理や資料収集など、展示にかかわる幅広い作業にも携わります。一方キュレーターのなかには「どんな作品を飾るか」「どんなアーティストを集めるか」などを考える、絶大な権力をもつカリスマも存在します。

 どんな媒体に所属するにせよ、個性的な人々との出会いを楽しみ、チームに責任をもてる人が良き発掘者であるといえます。

<第4回に続く>

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