終わりを想う/絶望ライン工 独身獄中記⑨

暮らし

公開日:2023/12/27

絶望ライン工 独身獄中記

6畳のアパートで柴犬と暮らし始めたのはいつだったか。
狭い台所は最小可動でどこにでも手が届くし、居間は天井が高く、朝になればオレンジの陽光が射す秀逸な空間であった。
住めば都、暮らせど蒲田。勝手知ったる大都会だ。
動画投稿を始めてからさらに気に入り、ああ、ここに一生住もう。
大金持ちになってギャルと結婚してタワマン買っても借り続けよう。
ここは小さな会津だ。この場所を失ってはいけない──そう考えていました。

ところが終わりは突然やってきちゃった
関西の地上げ屋管理物件となった我がアパートは、猶予3か月というスピード感で全住民に退去勧告が出た。
その時に思ったのが、終わりは突然やってくるということ。
何の兆しも予告もティザーサイトも見せずにいきなり目の前に現れる。
それから、私は様々な「もののおはり」を考えるようになりました。

会社の終わりは中にいるとよく分かる。
取引先が急に手形を振ってくる、支払いが遅れる、従業員が辞めていく。
もうあの会社の仕事をするのはやめよう、そろそろ危なそうだ、など皆が噂しはじめます。
飲食店も簡単に終わる。
近所に「持ち帰りお断り。焼きたてに自信あり」とデカデカと張り紙がしてある旨いが感じの悪い焼き鳥屋があったが、流行り病でまさかの持ち帰りを始め、とうとう潰れてしまった。
驕りはよくない。奢ってくれ。

アイドルやタレント活動をしている人の終わりは、SNSから観測できる。
それは「昔の写真を載せ始める」です。

去年の髪型~この頃はまだちょっと黒かった笑
これは2年前のライブの写真!9時からポコチャやるから来てね!
これ6歳の頃の私~今とあんまりかわらなくない?今夜出勤します♪

こういう投稿を見ると、ああこの人の旬は終わったんだ、そう感じてしまいます。
私は何があっても昔の写真を載せない。それは矜持である。
今この瞬間の自分が過去最高に仕上がっているという驕りである。
これ6歳の時の絶望ライン工~!今とあんまりかわらなくない?
なんて投稿を始めたら、私はもう終わったと思ってください。

そういえばこの連載はどんな最終回を迎えるのだろう。
連載もそうだが、動画投稿もきっと最後の日が来る。それはきっとこうだ。
いつもの部屋に柴犬と座っている冒頭のシーン。
しかし隣には小西真奈美が。(それか井上麻里奈)
御報告、と大きなテロップが出て、エアロスミスのアルマゲドンのやつが流れて感動のエンドロール。
(柱)長い間応援ありがとうございました!絶望ライン工の次回作にご期待ください!
(巻末)アリガトオオォォ

こんな感じになるだろう。その際はぜひ祝福して欲しい。
それまでは変わりなく自分のペースで動画投稿を続ける心づもりであるが、病気や事故といった事情で終わるのだけは避けたい。
読者諸君におかれましても、是非元気に過ごし、これからも長く連載や投稿を楽しんでいただきたい。

ところで、Youtuberの終わりを知っていますか。
それは、KADOKAWAから本を出すことです。

<第10回に続く>

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絶望ライン工(ぜつぼうらいんこう)
41歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。
絶望ライン工ch :https://www.youtube.com/@zetsubouline