昔、カカオは高級品だった! マヤのバカル王にとって長寿の秘訣は“カカオドリンク”/チョコレートで読み解く世界史①

文芸・カルチャー

公開日:2024/2/15

チョコレートで読み解く世界史』(増田ユリヤ/ポプラ社)第1回【全5回】

ヨーロッパとキリスト教の歴史から、今の世界情勢が見えてくる! マヤのバカル王にとって長寿の秘訣だった“カカオドリンク”、チョコレートが人気ゆえに続いた100年の論争、そしてチョコレートも工場で作られるようになった産業革命。他にも“18世紀のインフルエンサー”とも言えるマリ・アントワネットにとってのチョコレートの役割など、様々な切り口で歴史と宗教を学べる一冊です。“チョコレート”というちょっと変わった視点から歴史を学び直す『チョコレートで読み解く世界史』をお楽しみください!

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チョコレートで読み解く世界史
『チョコレートで読み解く世界史』(増田ユリヤ/ポプラ社)

マヤのパカル王はカカオのおかげで長生きした

 メキシコ南部にある、マヤ文明の古代都市パレンケ遺跡。1500もの建造物が発見されていて世界文化遺産に登録されています。第二次世界大戦後、1950年代から発掘調査がすすみ、階段状の神殿(ピラミッド)の中から石棺に収められた王の遺体が発見されました。7世紀にパレンケを統治していたキニチ・ハナーブ・パカル1世(パカル王)です。石棺の蓋にはパカル王が生命の木を登りながら再生する物語が描かれていて、蓋を開けるとマヤ特産の翡翠の仮面と首飾りを身につけたパカル王が眠っていたそうです。

 その後の調査研究で、パカル王は80代まで長生きしたことがわかっています。長寿の秘訣はカカオドリンクだと考えられていて、マヤの遺跡から発見された土器の中からはカカオの成分が検出されていますし、土器や人形の彫像には、カカオを表す文字やカカオポッドの絵が彫ってあることが確認されています。

 カカオドリンクの作り方をもう少し詳しく説明しましょう。まず、フライパンのような形をした土鍋の上でカカオ豆を煎ります。次に、煎って温かいカカオ豆を、石のまな板の上で石棒を麺棒を使うように転がしてつぶします。すると、カカオ豆は油脂分を多く含んでいるためドロドロの状態になります。すりつぶしたカカオだけでは苦いし、油脂分が多いし、口当たりも悪いので、トウモロコシを粉末状にしたものやトウガラシ、アチョーテ(ベニノキ科の植物で赤色の食用色素を多く含む)などを混ぜて、水や湯に溶かして、棒を使ってよく泡立ててから飲んでいました。泡立てることで油脂分を拡散させ、少しでも口当たりよく飲みやすくする工夫をしたのです。

 棒でかき混ぜて泡立てる方法のほかに、高いところから器に注いで泡立てる方法もとられました。カフェオレをいれるときにコーヒーとミルクの入ったそれぞれのポットを高いところから注いで泡を立てていれるのと同じですね。

 マヤのパカル王がカカオドリンクを飲んでいたことからもわかるように、高価なカカオを手に入れて口にできるのは、王や貴族など特権階級の人たちだけでした。

チョコレートで読み解く世界史

アステカ文明でもカカオは王侯貴族のものだった

 マヤ文明のあとに起こったアステカ文明でも、カカオドリンクは王侯貴族のものでした。富裕層の中には、なかなか手に入らないバニラやハチミツを入れて甘味を加えて飲んでいた人もいたようですが、まだまだ庶民が飲むものではありませんでした。

 アステカ文明は、マヤ文明と一緒に記述されることが多いのですが、繁栄した時代も場所も同じではありません。14世紀ごろ、マヤ文明のユカタン半島より北西にあたるメキシコ高原を中心に栄えたのがアステカ文明です。

 カカオ自体がとても貴重なもので神への捧げものとされていた時代です。メソアメリカの人々は、神事にいけにえや心臓を捧げる儀式を行っていました。これはいのちの源である血や心臓への信仰があったためだと考えられています。先ほどカカオドリンクにアチョーテつまり食紅を混ぜて飲むと紹介しましたが、マヤやアステカの人々は、信仰心から赤く染めたカカオドリンクを血に見立てて飲み干していたのです。

カカオ豆は貨幣としても使われていた

 メソアメリカでは、よく乾燥させたカカオ豆を貨幣としても使っていました。お金を連想させる意味をもつ漢字には「貝」という字が部首に使われていることからもわかるように、世界各地で貝を貨幣として使っていたことはよく知られています(貨幣の「貨」の字もそうですね)。素材自体が変化しづらいもので加工しなくても使えるものだったからでしょう。

 お金として使うには、そのもの自体に普遍的な価値があることも必要な条件です。カカオは神への捧げものとして非常に貴重なものだという認識が共通の価値観として人々の間で共有されていたので、当時のメソアメリカの人たちは金や銀と同様にカカオ豆を貨幣として使っていたのです。

 例えば、16世紀半ばのこの地域の市場では、カカオ豆1粒でトマト1個、2粒で鶏の卵1個、100粒で野ウサギ1匹を買うことができました。カカオの白い果肉を食べ、豆を煎って飲み物にし、乾燥させた豆はお金としても使う。メソアメリカの人たちは、カカオの魅力を存分に引き出していたのです。

<第2回に続く>

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