紫式部『源氏物語 八帖 花宴』あらすじ紹介。運命を変える危険な恋の始まり

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/22

 教科書にも掲載され、古典の名作として名高い『源氏物語』。難しい物語と思われがちですが、平安貴族の恋愛や人間模様は現代に通ずるところもありとても興味深いものです。本稿では、第8章「花宴(はなのえん)」のあらすじを分かりやすく簡潔にご紹介します。

源氏物語 花宴

『源氏物語 花宴』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

 数々の恋愛を経験してきた源氏が次に恋をするのは、政敵である右大臣の娘。彼女は花見の宴の夜に「朧月夜ほど美しいものはない」と口ずさんでいたことから「朧月夜(おぼろづきよ)」と呼ばれています。朧月夜は藤壺のライバルである弘徽殿の女御(こきでんのにょうご)の妹でもあり、これが後の源氏の運命を変える出会いとなっていきます。

これまでのあらすじ

 18歳になった源氏は、様々な女性と恋をしながら、心の中では父である帝の妃であり、自分の継母である藤壺を恋い慕っていた。ついに源氏は藤壺への思いを遂げ、藤壺は源氏の子を宿す。生まれてきた若宮は恐ろしいほど源氏に似ていて、密通の事実が帝に露呈することを恐れ、藤壺は憂いていた。

 一方で、源氏と正妻・葵の上との夫婦生活はうまくいかず、葵の上の実家である左大臣家への不実を帝にたしなめられるほどであった。原因の一つには、源氏が養育することになった美しい少女・紫の上の存在があった。

『源氏物語 花宴』の主な登場人物

光源氏:20歳。

藤壺:25歳。源氏との不義の子を帝の子として産む。

紫の上:12歳。藤壺の姪にあたり、少女から女性へと成長する姿を源氏は見守っている。

朧月夜:源氏の政敵・右大臣の6番目の娘。弘徽殿の女御の妹。

『源氏物語 花宴』のあらすじ​​

 花の盛りの宮中で、帝や藤壺、弘徽殿の女御、春宮(皇太子)が揃う中で盛大な宴が催された。源氏は「紅葉賀」の時のように美しく舞い、秀でた漢詩を詠んだ。他の人々が臆する中、堂々とした頭中将の舞や漢詩にも帝は満足された。藤壺は、もしも密通の罪がなければ源氏の姿を心から楽しむことができたのに…と苦しむ。

 夜も更けて宴がお開きになると、源氏はどうしても藤壺に一目会いたいと思いながらも叶わず、向かいの弘徽殿を覗く。若く美しい女が「朧月夜に比べられるものはない」と歌う声が聞こえ、源氏は、酔いに任せて政敵の娘であろう女君(朧月夜)と契りを交わす。お互いはっきりと正体を明かさぬまま夜明け近くなり、証として扇を交換して源氏は立ち去った。

 部屋に戻った源氏は眠ることができず、朧月夜のことを思い出していた。弘徽殿の女御の妹には間違いないが、ライバルや友人の正妻である妹君なら面白い。6番目の姫君なら、気の毒だ。父親である右大臣は彼女を東宮(皇太子)の妻にと考えていたようだから、と思い耽っていた。

 朧月夜が右大臣の何番目の娘なのかはっきりわからないまま、時は過ぎた。朧月夜もまた、東宮への入内が決まっていながら源氏を思う心に人知れず苦しんでいた。

 一方、久しぶりに会う紫の上は賢さと美しさを備えた女性に成長しつつあった。以前のように子どもっぽく源氏にまとわりつくこともなくなっていた。

 花の宴から1ヶ月ほど経つ頃、右大臣家で藤の宴が開かれ、源氏も招待を受けた。右大臣にとっては政敵である源氏だが、源氏の存在感は格別で、宴を華やかなものにした。右大臣邸は流行を取り入れた屋敷で、女房たちも華やかな様子であったが、何につけても藤壺と比較してしまう源氏は、その奥ゆかしさを思い出していた。酒に酔ったふりをして戸口のあたりで休みながら、御簾の向こうの女性たちに聞こえるように「扇を取られてつらい」と呟く。あの時扇を交換した娘であればその意味に気づくだろうと期待すると、一人何も答えず溜め息をつく女性がいた。彼女こそ、朧月夜と思い几帳越しにそっと手を握る源氏だった。

<第9回に続く>

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