お金が必要のない平和な未来は、犯罪は起きず理想的な世界に見えるけど…／３分間ミステリー かさなる世界④
文芸・カルチャー 公開日：2024/5/6
『かくされた意味に気がつけるか？ ３分間ミステリー かさなる世界』（恵莉ひなこ/ポプラ社）第4回【全5回】
1話3分ほどで読める短編のミステリー物語。話を読み終わったら、自由に想像して文章の中に“かくされた意味”を考える。潜むトリックは解説ページで答え合わせができるため、もう一度読むことで物語に隠された真実に気づけるはず。本全体を使ったトリックも仕掛けられているため、1話1話完結した話の中で“ある人物”に注目するとさらに作り込まれた世界が楽しめます。今回は『かくされた意味に気がつけるか？ ３分間ミステリー かさなる世界』に41編収録されているストーリーの中から、厳選した5つの物語をご紹介！
理想の未来
となりの家に、変なおじいさんが住んでる。
おじいさんの家の窓からは、ヘンテコな機械がたくさんあるのが見えるし、たまに小さな爆発騒ぎを起こしたりしてる。
あまりにあやしいから、僕はおじいさんが出かけたのを見計らって、となりの家に忍びこむことにした。
そして、見たことのない大きな機械のつまみを適当にいじって、スイッチを押してみたんだ。そしたら、急に意識が遠くなって──
目が覚めたら、全然知らない場所にいた！
建ってる家はやけにグニャグニャした形だし、空には車が飛んでる。
歩いてる人たちの服も見たことのない模様ばっかりで、やけにキラキラしてる。
あの機械はきっとタイムマシンで、僕は遠い未来に来てしまったんだ！
そう思って、僕は青ざめた。
だって、元の時代にどうやったらもどれるのか、何もわからないんだから。
とにかく僕は、この時代を観察してみることにした。
そうしたらすぐに、ここがどんなに素晴らしいところか気がついた。
まず、街のモニターで放送されてるニュースがすごく平和だ。
今はどこそこの公園の花が見どころですとか、迷子のペットが無事に見つかりましたとか、デパートがリニューアルオープンしますよとか。
そのうえ、通りがかった交番の前には、指名手配犯の写真が一枚もはられてない。
図書館で調べてみたら、この世界では長いこと犯罪が起きてないらしい！
レイナという人が首相になってから、たくさんの改革をして、人々にいろんなことを訴えて、とうとう人類から危険思想が消えたんだそうだ。
それって、すごいことだ！
僕は感動した。
悲しいニュースを見ないですんで、危険な人がいない世界が存在するなんて！
そうこうしてるうちに、お腹がすいてきた。
僕は困ってしまった。
お金なんて一円も持ってなかったからだ。
でも、商店街に入ってみて気がついた。
お客さんが誰もお金を払ってない。
お肉屋さんでも洋服屋さんでも、お客さんが欲しいものを言うと、店員さんがすぐに渡してくれる。
わけがわからなくて、もう一度図書館にもどって調べてみた。
そうしたら、お金を払うという行為は、もうだいぶ前になくなってた！
改革によってみんながいい人になったから、というのが理由だそうだ。
これはすごいぞ、タダでレストランに入れる！
僕はまた感動しながら、商店街で一番高級そうな料理店に入った。
注文したハンバーグランチはとてもおいしくて、最高の気分だ。
もう、元の時代に帰れなくてもいいかもしれない。
ここは理想の未来だ！
僕はハンバーグをあっというまに平らげると、ウキウキしながら店員さんに言った。
「おかわりください！」
その瞬間、店内にビーッ、ビーッ、と警報音が鳴り響いた。
おどろく僕の前に、警察官がかけつける。
「七つの大罪違反で、逮捕する！」
警察官はそう言うと、僕の両手に手錠をかけた。
