官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第59回】草野來『快感★ラブ・マッサージ~美容師の指でふれられて~』

公開日:2014/10/7

 思い返すと口の端から小さな笑みがこぼれる。

「くすぐったい?」

 花邑さんの問いかけに、「ううん」と短く答える。父親以外の男の人にこんなに遠慮のない態度や口調をとってるなんて、あの頃の自分には想像もつかない。

「はい、お疲れさまでした。こちらへどうぞ」

 シャンプーが終わってカット台へ案内される。熱いコーヒーとガラスの器に入った小粒チョコレートが出てくる。

「たしかノーミルク、ノーシュガーだったよね」

 お金を払って施術される正式なお客でもないのに。花邑さんは私のコーヒーの好みも覚えていて、手ずから用意してくれる。それは職業上のことだけではなく、この人自身の性格からきているように思われる。さっきの男の子にかけた言葉にも表れていたように、ずっと年下の人間にも礼儀正しくて親切だ。

「ではマッサージに入ります」

 肩にタオルをかけられて両手を添えられる。長くて筋張った、荒れている、それでいながら手ざわりのいい指。お客さんの肌を傷つけないようにだろう、爪は短い。

「希羽ちゃんはいつも頭が凝ってるね」

 彼は私のコリをよく知っている。耳のすぐ後ろの頭皮をぐっと圧されると、いた気持ちよくて声が出る。

「っんん」

「痛かった?」

「痛いけど……気持ちいいけど……痛いです」

「今日もかなり凝ってますね。なにか凝るようなこと、あった?」

「昨日、学科の先生方との面談があって……そのあと呑み会があって」

「気疲れした?」

「少し。でも勉強にもなりました。今後やっていく上で」

「そのぶん凝りになっちゃったのかな。頭とか肩とか首にさわるとね、その人の疲れ具合やストレスが手を通して伝わってくるんだ」

 知っている。

 私も花邑さんに頭や肩や首すじをさわられると、手から心地いい感じが伝わってくる。その感触はあとになって不意によみがえることもある。たとえばお風呂上がりや寝る前に。

 花邑さんの指は頭から首の方へと下りていく。猫の仔を持ち上げるみたいに片手で首を押さえてコリを揉みほぐす。もう片方の手は右肩の、腕のつけ根の部分に添えられる。わずかに力を入れられてくすぐったさが駆け抜けた。
(っ……)

 唇をきゅっと噛んで息を止める。

 肩の下の、脇のすぐ上。そこが性感帯だとばれないように細心の注意を払ってきた。声を漏らさず、表情にも出さず。マッサージされてるだけで感じてしまっているなんて、決して悟られてはいけない。自分自身、この部分が感じるだなんて花邑さんからマッサージされるまで知らなかったのだ。

「はい、お疲れさま」

「ちょっと……うとうとしていたかも」

 さも眠たそうにつぶやいて大げさに伸びをした。ケープを着けられ、首と布地の隙間に指先を差し込まれ、くっと軽く曲げられて、またもざわつきそうになる。

「きつくない?」

 

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