文豪が描く究極の「書かないエロ」――川端康成『雪国』

文芸・カルチャー

2018/10/22

『雪国 (新潮文庫)』(川端康成/新潮社)

 親譲りの財産で生活を送る妻子持ちの文筆家・島村が、雪国の温泉旅館に通い、駒子という芸者との関係を深める様子を直接的に書かず(比喩や背景描写でそれを匂わせつつ)綴った物語。

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」——12月の初め、島村は雪国に向かう汽車の中で、病人の男に付き添う女性に興味を惹かれる。旅館に着いた島村は、芸者の駒子と落ち合って朝まで共に過ごす。

 島村は、5月に駒子と初めて過ごした夜を回想する。人手が足りていなかった芸者の代わりに島村の部屋にお酌に来たのが、見習いの19歳の駒子だった。「君とは友達でいたい」と島村は言ったが、結局酔った駒子と一夜を共にしたのだった。駒子はその後まもなく芸者になっていた。

 再会の翌日、島村は駒子の師匠の家に行った。汽車の中で見かけた病人は師匠の息子の行男で、腸結核で命が長くないため帰郷したそうだ。付き添っていた女性は葉子といい、駒子の知り合いだった。駒子は行男の許婚で、治療費のため芸者に出たのだと島村は伝え聞くが、駒子はそれを否定する。島村は滞在中、毎晩駒子と共に過ごした。

 翌年の2月に来ると約束して別れたが、島村が再び温泉宿を訪れたのは翌々年の秋になり、行男も師匠も亡くなっていた。駒子は毎日お座敷の合間に島村の部屋に来た。島村は葉子とも会話し魅力を感じたが、彼女は死んだ行男をまだ愛しているようだった。

 ある夜、映画の上映会場が火事になり、島村と駒子は駆けつけた。炎の中、ひとりの女が2階から落ちた。落ちた女が葉子だと判明したが、彼女はかすかに痙攣して動かなくなった。駒子は葉子を抱きしめ、「この子、気がちがうわ。気がちがうわ」と叫んだ。島村の目には、駒子は自分の犠牲か刑罰かを抱いているように見えた。

文=K(稲)