川端康成『舞姫』あらすじ紹介。精神的な不倫と、一家崩壊の物語

文芸・カルチャー

更新日:2023/3/31

『舞姫 (新潮文庫)』(川端康成/新潮社)
『舞姫 (新潮文庫)』(川端康成/新潮社)

 矢木波子と夫の元男との間には21歳の娘と大学生の息子がいる。裕福な育ちで理想家めいたところのある波子は、バレエ教室を営んでいる。かつてはプリマドンナとして舞台での活躍を夢見ていたが、今は娘と生徒の育成に勤しんでいる。対して夫の元男は現実主義的な国文学者で、価値観が合わないことが多い。

 波子は夫に隠れて、結婚前に恋人関係にあった竹原という男としばしば密会している。しかし2人はずっとプラトニックな関係を保っていた。また彼女は夫に体を求められると拒まなかったがそこに心はなく、最近は屈辱を感じるまでになっていた。

 息子の高男はどちらかといえば父のことを尊敬していたが、娘の品子は母の波子のことを慕っていた。彼女も波子からバレエを習い、舞姫を目指していた。

advertisement

 そんな品子の口から、波子は夫が内緒で貯金をしていることを知らされショックを受ける。元男も波子の浮気に気づいていないわけではなく、財産の確保や息子の留学準備を進めているのであった。夫婦はもはや仮の姿で、そこに本物の家族の信頼やつながりはなかった。

 ある日、波子は竹原と劇場を歩いている現場を息子の高男に見られてしまう。これを知った元男は、子どもたちの前で波子の不倫を責め立てる。家族は本格的にばらばらになっていった。

 だが、夫婦の決別に関して悪いのは波子の精神的な浮気だけではない。生まれが裕福ではない元男は、裕福な波子の家系の財産を着実に乗っ取っていた。波子は竹原と協力し、家の所有権を書き換えようとする元男を阻止した。

 その頃娘の品子は、バレエ団に所属する男性からプロポーズされる。しかし昔から思いを寄せていた香山というダンスの先生を求め、物語の最後に香山のいる伊豆へと旅立った。

文=K(稲)