【宇垣美里・愛しのショコラ】オランジェットは大人の嗜み/第3回

小説・エッセイ

更新日:2020/4/4

 あまりにも好きすぎて、一度作ってみたらすっかりはまってしまった。
 有機栽培のオレンジをたんまり買ってきて薄くスライス。後はひたすら砂糖で煮詰めて一週間、それから乾燥にさらに3日間、そうするとまるで宝石のようなコンフィチュールができあがる。
 ここまでに13日かかっているのだ。それはもう愛の結晶以外の何者でもない。

 温めたチョコレートに半分くらいつけたら、もう完成。
 あえてあまり糖度を上げず、苦みをしっかり残したコンフィチュールにはより深い味わいのダークチョコレートを。はちみつを足して甘くしたものには優しいミルクチョコレートを合わせるのが好み。キャラメル風味のチョコレートやコーヒー味のチョコレートと合わせるのも美味しかったし、まろやかなホワイトチョコには砕いたドライフルーツを振りかけたら絶品だった。

 仕上げに金箔やナッツを散らすとより美しくなってもうメロメロになってしまう。楽しみ方はつきない。けれど誰にもあげない。全部、私の宝物。

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 美味しい紅茶を淹れて、お皿に綺麗に盛ったオランジェットを楽しんでいる時、他のどんな時よりも大人でおしゃれでファビュラスな私になれている気がする。
 爽やかな柑橘とほろ苦いカカオ、妖艶なリキュールが合わさった芳醇で深い香りはどんな香水よりも魅力的で、まさに大人のための大人のチョコレート、それがオランジェット。

 昔憧れていた古い映画にでていた女優の年を越えて何年か経つ。
 彼女のような余裕のあるミステリアスな女性になれているとは、到底思えないけれど、オランジェットを愛せるような大人にはなれた。

 案外ずっとずっと遠くを行っているような人だって自分と同じように未熟だったりするんだろうなあとも思う。
 そう思えるようになった。それが、大人ってもんじゃないんだろうか。

【筆者プロフィール】
宇垣美里(うがき・みさと)
兵庫県出身。2019年3月にTBSテレビを退社し、4月からフリーのアナウンサーとして活躍中。チョコレートのほか、無類の旅好き、コスメ好きとしても知られる。週刊誌、WEBサイトでコラムやエッセイなど多数連載中。19年にはファーストフォトエッセイ「風をたべる」を刊行。

撮影=中村和孝(まきうらオフィス)/ヘアメイク=AYA(LA DONNA)/スタイリスト=小川未久(宇垣さん衣装)、片野坂圭子(雑貨)/編集協力=千葉由知(ribelo visualworks)

衣装協力=ラベルエチュード(チュールスカート / https://online.labelleetude.com/ )