【宇垣美里・愛しのショコラ】オランジェットは大人の嗜み/第3回

小説・エッセイ

2020/4/3

 オレンジが好き。チョコレートも大好き。
 だとすればその二つが合わさったオランジェットが嫌いなはずがない。けれど、この大人のお菓子を最初から好んで食べていたわけではなかった。

 子どもの頃はむしろ、オレンジの部分の苦みや口に残る繊維が苦手で、チョコレートの部分だけこそげ落とすようにして食べたこともある。
 どうして大人たちはあんなにも美味しそうに食べるんだろうと不思議でしかたなかった。
 好きになった理由はただ一つ。美しかったからだ。

 美味しさも分からないうちから、スイーツショップに行けば必ず親にオランジェットをねだる子どもだった。
 その先が透けて見えるような果肉の部分は光を反射してキラキラと光り、ライトにかざせば肌に柔らかいオレンジ色の影を落とす。まるでステンドグラスみたい。
 艶やかな砂糖漬けとその半分にかけられたチョコレートのマットな質感とのコントラストがたまらなくおしゃれでうっとりしてしまう。

 茶色と橙色の組み合わせってこの世で一番おしゃれな組み合わせなんじゃないだろうか。とびきりチャーミングでわがままで魅力的な洋画の主人公みたいだ。
 もちろん、ホワイトチョコレートも捨てがたい。キュートさが引き立ってなんだか守ってあげたくなる。イヤリングにして耳に飾るのがいいかもしれない。

 ああもうずっと、ずっと見ていたい。
 キラキラと輝く宝石はどれもこれも精工に作られた琥珀糖や飴玉のように美味しそうに見えて、あまりにも美味しいスイーツは高価なジュエリーのように見えてしまうのは、いったい何故なんだろう。

 飽きるまで眺めて見つめて、一通り愛でたら、次はだんだん食べたくなってくる。
「食べちゃいたいほどかわいい」ってこういうことを言うんだろうか? スイーツは本当に食べられるからいいよなあ。
 最初の頃は食べるとやっぱり苦い、と思っていたのが、いつの間にかこの苦みこそがいいんだよと思えるようになっていた。

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