「動画は下積み」ではない! 責任重大なのにギャラが安い「動画」の仕事…/『アニメーターの仕事がわかる本』④

アニメ

公開日:2020/4/26

長時間労働で低賃金、パワハラ、作画崩壊とか怖いニュースが多すぎ…一体、どんな働き方をしているの? 社会問題にすら発展したアニメーターの働き方と現実を、人気作画監督・西位輝実の実体験と取材。アニメーターの世界を歩くための、ゆるくてシビアな業界入門書です。

『アニメーターの仕事がわかる本』(西位輝実、餅井アンナ/玄光社)

「動画」は最初に学ぶ仕事にして作品の質を左右するパート

にしー先生:原トレを習得したらやっと「中割り」をさせてもらえるようになる! 絵と絵の間を何枚描くかは原画の人が指示してくれるから、違和感なく滑らかに繋がるように枚数を埋めていくよ。

もちい:これもまた特殊な技能ですよねー。

にしー先生:原画の形を崩さないよう、ひたすらきれいに描く。どれだけ原画のクオリティが高くても、この動画がうまくいかないと映像がドローンと「溶けちゃう」んだ。
ここに至るまでにもたくさんの工程があるんだけど、最終的に画面に映るのは動画の絵だからね。他の人たちが積み上げてきたものをどれだけ活かせるかは、このパートにかかっていると言っても過言ではないよ。

もちい:うわあ、責任重大……!

にしー先生:そうだよ~。新人が任される仕事ではあっても、決して素人の仕事ではない。よく「動画は下積み」的なことを言われたりもするけど、それは全然違いますから!

もちい:いやいや、すごく大事なところじゃないですかー!

にしー先生:そう、経験を積んできたアニメーターほど、その重要性をよく知っている。でも制作費を出すエライ人たちには伝わらないのか、ギャラはすごく安いから、ずっと動画だけをやっていると食べていけないっていう問題もある。
以前は1話分の動画をチェックする「動画検査」っていう立場の人がいたくらいなのに、今はいない現場が多いし。

もちい:えっ、どうしていなくなっちゃったんですか?

にしー先生:やっぱり収入の問題と、あとは人手不足。動画で経験を積んだ人には、原画になるか動画検査になるかっていう2つの進路があるんだけど、今はとにかくアニメーターの数が足りていない!
だからある程度描ける人は、すぐにでも原画に行ってもらわないと現場が回らないの。その結果、動画検査のポジションが省かれちゃっている。

もちい:ひええ。

にしー先生:画面の最終的なクオリティに責任を持つ人がいなくなってきているってことだから、かなりまずいよね。動画検査がいる現場もあるんだけど、スケジュールが詰まっているせいで昔ほど丁寧に見るのは難しくなっているみたいだし。

もちい:大事なパートなのに、それでいいんでしょうか?

にしー先生:よくはない! 個人的には、動画の仕事ってもっと評価されるべきだと思うんだ。技術が要る立派なプロの仕事だし、動画の人たちがいなかったらアニメーションも完成しないわけだから。

もちい:うう、ちゃんと技術に見合った評価がされるといいなぁ。

「原画」は絵に演技をさせる仕事

にしー先生:そして、カットの中で動きのキーポイントになる絵を描くのが「原画」。動画で経験を積んだ人が進めるポジションなんだけど、実は必要な能力が動画とは全然違う。

もちい:せっかく動画で腕を磨いたのに、別の仕事になっちゃうんですか?

にしー先生:とはいえ、動画はアニメの基礎だからね。アニメーション制作が集団作業である以上、「次のセクションの人がどうやって仕事をするのか」を把握しておくのはすっごく大事だよ。
そうすれば「これをやると次の人が大変になっちゃうな」「こうしておくと楽だな」っていうのを織り込んで作業ができるでしょ?

もちい:なるほどー。それがわかってるのとわかってないのとでは全然違いますもんね。

にしー先生:ただ、それぞれのパートで求められる力は本当に違うんだよ。動画で良い仕事ができていた人が原画も上手いとは限らないし、原画は得意だけど動画は苦手ということもザラにある。

もちい:動画の仕事は「とにかく正確な技術が求められる」って感じでしたけど。

にしー先生:そう、動画はとくに「職人」的な色が強いパート。それに対して原画は……「役者」。

もちい:や、役者!?

にしー先生:うん。監督の指示に従って、キャラクターに演技をさせる仕事だね。

もちい:キャラクターに演技を……? ううっ、ますますわからない。

にしー先生:ざっくり言うと「“そのキャラクターらしい” 動きをさせてあげること」かな。ちなみに、原画を描くときには「絵コンテ」って呼ばれるものを参考にするんだけど、どういうものかわかる?

もちい:あの、鉛筆でザッと描かれた4コマ漫画みたいなやつですよね。アニメーション関係の展示とかでよく見かける。

にしー先生:それです! 脚本をベースに演出や監督が描いた設計図みたいなもので、ドラマや実写映画の台本と違って、テキストじゃなく絵で説明されているのが独特だね。漫画の「ネーム」にかなり近いんじゃないかなー。

もちい:なるほど、「ネーム」って言われるとわかりやすい!

絵コンテを読み解くのも必要な能力

にしー先生:これを元に原画の作業を進めていくんだけど、絵コンテはあくまで話の流れを伝えるものだから、かなりラフに描かれていることが多いの。
それこそ4コマ漫画くらいの大きさだし、キャラクターの細かい表情や動きなんかも省略されていて、横に「驚く」とか「振り返る」といった、ざっくりとした動きの指示が入っているくらい。

もちい:ええっ、そこから原画を起こすのってすごく大変なんじゃ。

にしー先生:でもさ、三次元のお芝居もそんな感じじゃない?


にしー先生:たとえば「別れのシーン」を撮るってときに、「目線はこれくらいで、手の角度はこれくらい、台詞はこういう抑揚で、このタイミングで涙を流してください」みたいなことを監督が一から十まで指示してくれるわけではなくって。台本を読み込みながら、役者さんの中で「この役はこういう場面でどんな表情や仕草をするだろう」っていうのを膨らませて演技をしないといけないんだよね。

もちい:ああ! 役柄をつかむ、みたいなことですね。

にしー先生:そうそう。原画に求められるのも似たような力で、つまりは「絵コンテを読む」能力。
これを描いた人は頭の中でどういう映像を組み立てているのか。その意図を汲み取りつつ、絵コンテのイメージをどこまで膨らませて演出をするかっていうのが、原画のおもしろいところでもあり難しいところでもあり。

もちい:うーん、繊細なバランスだなぁ。

にしー先生:絵コンテを描く側も、アニメーターがどんな演技をさせるのかを楽しみにしてたりするんだよね。
「これこそ自分のイメージしてた映像だ!」ってなることもあるし、「自分の意図とはちょっと違うんだけど、面白いから採用!」みたいなこともある。

もちい:ちょっと化学変化っぽいことが起きるんだ。なんだかワクワクしますね!

にしー先生:ふふふ、そうでしょう。演技の話はなかなか表に出ないけど、すごく楽しい作業なんだ。

<第5回に続く>