「人の苦しみを自分のことのように感じてしまう」優しい人でいることをあきらめよう/コロナうつはぷかぷか思考でゆるゆる鎮める④

暮らし

公開日:2020/8/4

新型コロナウイルスへの不安から、心身に不調をきたす「コロナうつ」が急増。つらいと感じたら一度立ち止まり、ぷかぷかと浮いたような気分でのんびりしてみては? 精神科医が教える心を鎮める思考方法をご紹介します。

コロナうつはぷかぷか思考でゆるゆる鎮める
『コロナうつはぷかぷか思考でゆるゆる鎮める – みんな不安。でも、それでいい –』(藤野智哉/ワニブックス)

優しい人でいることをあきらめる

 感受性が豊かな人がいます。

 苦しんでいるような気がします。

 テレビのドキュメンタリーを見て悲しいシーンがあったときには涙が出ますよね。お風呂に入っているときも、悲しいシーンを思い出して涙が出そうになり、もしかするとベッドに入ってからも悲しい気持ちは消えないかもしれません。

 それでも人間というのは強い生き物ですから、次の日になるとある程度リフレッシュして新しい気持ちで1日を始められるものです。

 しかし、感受性が豊かな人は、悲しい気持ちをずっと引きずったまま生きていくことになります。

 人間はある程度記憶が蓄積したら、どんどん消去していくようにできています。脳の記憶容量と処理能力には限界がありますので、全部を抱えて生きていこうとしたらオーバーヒートしてしまうからです。

 しかし、感受性が豊かな人は、一度見たシーンをずっと忘れません。そういう人は処理能力が高いのかといえば、そういうわけではなく、新しく入ってくる情報を遮断しているに過ぎません。

 つまり、ひとつの出来事に引っ張られ過ぎて、次の一歩を踏み出せずにいる状況と言えるかもしれません。

 感受性が豊かな人には、以下の共通項があります。

・人の言葉の裏にある意図を想像してしまう
・知らないことがあって検索をしていると、違うことも調べたくなる
・物事を始めるまで考え過ぎてしまってなかなか踏み出せない
・人見知りである
・人混みや大きな音が苦手
・友達と会ったあとはどっと疲れる
・映画や小説などに感情移入しやすい
・人の言葉に傷つきやすい
・人の機嫌に敏感である

 ざっと挙げただけでもこんな特徴があるのですが、ひとつふたつ当てはまりましたか? もしかすると、すべてがあてはまったという人もいるかもしれません。

 これだけを羅列すると、ちょっと内向的な人くらいにしか思えないですよね。そんなに気にすることないじゃない、と声さえかけたくなります。

 でも、本人は生きづらさを感じている。その苦しさは本人にしかわかりません。

 感受性が豊かな人が生きづらい世の中であることは間違いありません。テレビをつけなくても、手元にあるスマートフォンからどんどん情報が流れ込んでくるからです。

あきらめることの重要性

 人の感情に共振しやすい人の特徴として「自己肯定感が低い」ことが挙げられます。自分よりももっと価値があって感動を与えてくれる存在がいるのでしょう。だから自分よりも他人のことが気になってしまう。

 そして、人の気持ちに敏感になり過ぎたあまり、人の苦しみを自分のことのように感じてしまいます。

 なぜなら優しい人だから。

 大切なのは人のことを気にすることをあきらめることだと思うんです。

 もっと言ってしまえば、優しい人をあきらめていいと思うんです。

「あきらめる」という言葉は、現代では、断念したり良くない状況を仕方なく受け入れるときに使われます。

 最近広く知られるようになったことですが、仏教ではあきらめると「明らかにする」は同じ語源だと言われています。

「諦」という漢字自体には悪い意味はひとつもないそうです。

「あきらめる」ということばは余計なものを捨てるといった意味を持っていると私は感じています。

 自分が幸せになるために、果たして他人の視線や評価が必要なのか、しっかりと考えてください。

 自分が生きていくために目的とすることは何か。目的のために、あきらめるべきものは何かゆっくり考えてもいいでしょう。

共感のその先へ

 共感をする、つまり感受性が豊かなことは素晴らしいことですが、たとえば、あなたが見たドキュメンタリーの画面の中の人に多大な感情移入をして、クヨクヨし続けることは解決になりません。

 あなたが心を痛め続けたとしても、画面の中のその人は幸せにならないからです。

 他人の苦しみに共感する能力を持っている人は、他人の苦しみを身近に感じ、次第にそれを自分のことのように感じてしまいます。

 やがて、その人のことよりも自分の悲しさのみがフィーチャーされて、悲しみがあなたを覆い尽くすのです。テレビをつけたら悲しくなり、スマホの痛ましいニュースを見ては心を痛める日々に覚えがあることでしょう。

 だけど、悲しみには一線を引かないといけません。

 医師は患者さんを快癒させることに常に全力を注いでいますが、心は常に冷静でいなくてはなりません。患者さんがパニック状態のときに、同じように動揺してしまったとしたら、事態は悪化する一方でしょう。

 もちろん悲しい気持ちはありますし、自分の無力さを痛感したりもしますが、しばらくして気分を切り替えなければいけないのです。

ルーティンを作る

 ボランティアや弱者の救済に人生を捧げる人は、難民や貧困に苦しむ人を助けたいと思い、日々奮闘されています。

 だけど、彼・彼女たちは、困っている人たちに対して深く同情しつつも、それ以上の悲しみを共有しようとはしません。

 おそらく、憎むべきは戦争や、貧困であり、それらを根本的に解決することを目指しているからです。

 あなたがもし苦しみを感じているのだとしたら、その原因はどこにあるのでしょう。

 テレビを観て涙が止まらないとしたら、あなたが動くことによって、その人の悲しみが救われるのならばすぐに行動に移しましょう。

 そうでないとしたら。

 しばらく涙を流したら、リセットして楽しいことを考えるべきです。あなたにはその権利があるはずだから。

 それでも心がつらくなったらルーティンを作ることもいいでしょう。

 暗い気持ちになったら深呼吸をしましょう。遠くを見ましょう。気分をその場から引き離してください。家族や愛犬の写真でもいいですね。

 気持ちがつらくなったら、大きく深呼吸をして、自分の好きなものを眺める。

 一度成功したら、そのルーティンを体に染み込ませるだけで、気持ちが引っ張られることが少なくなります。

<第5回に続く>