柔軟性を養うためには知的訓練が必要。青学・原監督流リーダーシップ論/改革する思考こそが、日本を変えられる④

ビジネス

公開日:2020/8/3

 大学駅伝3冠、箱根駅伝4連覇など、陸上競技の指導者として、数々の偉業を成し遂げてきた青山学院大学の原晋監督。同氏が異端児と言われながらも貫き通してきたリーダーシップ論を語る。ポストコロナの時代に求められるものとは。

改革する思考
『改革する思考』(原晋/KADOKAWA)

この新型コロナウイルス禍は、改革する思考を磨くチャンス

 社会をよりよくするためには、既存の仕組み、枠組みを変えていくことが必要です。そのためのアイデアを出していけば、社会が変わるチャンスが生まれます。

 アイデアが浮かんでくるのは、昔からの私の習性です。会社員時代から、私はテレビのニュースを見ていても、すぐになにかツッコミを入れたくなってしまうのです。企業での不祥事のニュースがあったりすると、「こうしておけば、こんなことにはならなかったんじゃないか?」と思ってしまうし、すぐに改革のアイデアが閃いてしまう。そうしていると、まったく退屈しません。

 改革する思考を日ごろからトレーニングしているようなものです。学生たちにも、朝食のミーティングの場などでこう話しています。

「常に疑問を持って欲しいと思います。そして、改革できるチャンスがあると思えば、どんどん意見を言ってください。学年なんか関係ないですから」

 2020年の新型コロナウイルスの感染拡大は、そうした改革思考力を鍛える、またとないチャンスです。

 このパンデミックは、世界を大きく変えています。どういう形で収束するのか、社会が落ち着きを見せるのか、世界中の誰ひとりとして答えを持ち合わせていません。騒動のなかで、医療関係者は経験、そしてエビデンスを駆使しながらも、正解にたどり着けるかどうか分からないままに葛藤を続けていることを知りました。

 2020年のこの時点で、私にハッキリ言えるのは、これまでの文法で物事に対峙することは無意味になるということです。

 これからの時代、改革する思考を持つために必要なのは、「柔軟性」です。

 ただし、体の柔軟性ひとつとってみても、すぐに体の可動域が広がるわけではない。毎日毎日、欠かさずストレッチなり、エクササイズなりをすることによってしか、柔軟性は獲得できません。発想の柔軟性にも同じことがいえます。

 私は学生たちに「発想の柔軟性を養うためには何が必要か?」と、よく問いかけます。

 その第一歩として必要なのは、すべての事象を「自分ごと」として捉えること。当事者意識と言い換えてもいいかもしれません。たとえば、2020年4月にはインターハイの中止が発表されました。青学の選手たちの多くも、インターハイで競い合い、喜びや悔しさを味わってから大学に入学してきました。

 高校生にとって大きな目標であるインターハイがなくなってしまった。それをどう捉えるかは、その選手の感性次第です。

 ああ、自分たちのときはインターハイがあってよかった。

 こういう発想は、他人事でしかありません。まったくもって、ダメ。一見、自分のことに考えをめぐらせているように見えて、自分ごとではなく、他人事になっている。必要なのは、「自分がいま高校3年生の立場だったら、どう感じるだろうか?」という想像力であり、共感力です。

 英語で共感力は、『empathy』(エンパシー)という単語で表現され、現代社会において、必要な感情とされています。

 では、共感力を磨くためにはどうしたらいいか。テレビのニュース、新聞、インターネット、あるいはテレビドラマを見た時に、常に自分ごととして捉え、

「自分だったら、どう対応するだろう?」

 ということを常に考えなさい、と学生たちには伝えているつもりです。いまの学生はネットニュースで情報を得ることがほとんどです。単に受け取るばかりでは、新型コロナウイルス騒動のときのようにメンタルがやられてしまう場合もあります。つまり、受け手にばかりなってしまってはダメなんです。

 それよりも、ニュースにおける物事の本質、問題点とはなにか? そうしたことを自分なりに探り当てることが肝要です。そのうえで、自分ごととして捉えたときに、解決策を3つ提示するという訓練をしていけば、改革する思考が身についていくはずなんです。

 インターハイが中止になった。じゃあ、高校生に新たなモチベーションを保ってもらうためには、どんな方法があるだろうか? きっと、そうしたテーマなら、青学の学生ならばたくさんアイデアが湧いてくると思います。

 こうした訓練を積んでいくときに、私が学生に言っているのは、「自分が最高責任者になったつもりで考えること」ということです。

 自分が改革できる立場にあって、組織を変えるチャンスがある。そういうポジションで問題点を探り、解決する手段を発見していく。それが改革マインドであり、改革する思考を育てる近道だと思います。

 青学の卒業生を見てください。みんな、自分で考える習性があるので、自らの力で社会に飛び出していっています。元指導者としては、ヒヤヒヤものですがね。

 たとえば、神野大地はコロナウイルス禍で「アスリートは何をすべきか?」と問われている状況で、中学3年生、高校3年生、大学4年生を対象にオンライン上でカウンセリングをやっていました。競技会がなく、将来の道筋に不安を持っている学生に対して相談に乗っていたわけです。

 神野は自分にできることを実行に移したわけですが、こうした柔軟な発想、そして行動力が将来的にも生かされるに違いありません。

<第5回に続く>