キャプテンコラム第4回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その①〉/メリットとデメリット」

キャプテンコラム

2011/9/5

ダ・ヴィン電子ナビ キャプテン:横里 隆

ぼくたち電子ナビ編集部は学生時代の部活動のようなところがあります。
だから編集長じゃなくてキャプテンなのです。
そしてネットの海を渡る船長という意味も込めて。
みんなの航海の小さな羅針盤になれたらいいなと。
電子書籍のこと、紙の本のこと、ふらふらと風まかせにお話ししていきます。

電子書籍で自費出版をしている作家の作品が100万部を突破しました。

これは、6月20日に米アマゾンが発表したもので、キンドルで自費出版小説を発売していたエンターテインメント作家ジョン・ロック氏の作品が、10作品の累計販売部数で101万370部に達したというのです。(asahi.com「自費出版の電子書籍で初の100万冊販売 米アマゾン」 より)
このニュースには衝撃を受けました。
作家、というよりも一個人が、電子書籍出版のシステムを用いることで、大手出版社の出版システムと公平かつ自由に戦うことが可能になったということです。いつかこういう日が来るだろうと思ってはいましたが、実際に訪れてみると、それが実現する速さに驚かされました。


アメリカでは少し前に、アマゾンにおける電子書籍の販売数が紙の本を抜いたという大きなインパクトのニュースが流れたばかり。
一見するとアメリカの電子書籍市場拡大の勢いは止まらないように見えます。
そして、まだまだケータイ以外の電子書籍市場が小さい日本から見たら、
“来たるべき明るい未来”がそこにあるかのような期待を抱いてしまいそうになります。

とはいえ、ここで現実を見据えてみましょう。
ジョン・ロック氏の電子書籍は、ほとんどが99セント(約79円)で売られており、そのうち35セント(約28円)が同氏の取り分になるとのこと。
すなわち、ジョン・ロック氏の電子書籍の自費出版が100万部売れたときの著者収入は、28円×100万部=2800万円となります。
一方、1400円の単行本(紙)が100万部印刷されたときの著者印税は、1400円×10%×100万部=1億4000万円です。
単純な比較はできませんが、販売金額は、電子書籍:1に対して紙の書籍:約18、作家の収入は、電子書籍:1に対して紙の書籍:5、となっています。

要するに電子書籍自費出版のメリットは、買い手である読者にとって、新刊が驚くほど安く読めるというものであり、
書き手である作家にとっては、紙の本と比べれば低いものの、確実に収入を得るチャンスがあり、何より出版という行為が出版社に束縛されずに実現できるという点なのです。

デメリットは、たとえ100万部に達したとしても、売上金額は紙の本の場合の18分の1でしかなく、それを紙の本の部数に換算するとたかだか5.6万部くらいのインパクトになってしまう点です。
当然ながら作家の収入も5分の1になっているわけで、市場としては激しいダウンサイジングが起こっていると言えるでしょう。
また、既存の出版社を通さずに出版ができることで、出版社というものの存在価値が失われてしまうという点も大きなポイントです。

電子書籍の自費出版が100万部を突破したというニュースは、新たな出版モデルとしての確かな可能性を示唆してはいます。
ただ一方で、出版モデルの極端なダウンサイジングと、出版社の存在価値が揺らぐという、出版業界の危機的変化を予感させるものでもあるのです。

正直、出版社で働く身としては、ちょっとドキドキしてしまいます(汗)。
動悸が治まらないので、もうすこし先までシミュレートしてみたいと思います。

では、ジョン・ロック氏の成功をきっかけに、今後のアメリカ(そして日本)では、更なる電子書籍自費出版発のベストセラーが次々と登場し、出版界を席巻していくのでしょうか?
答えは、おそらくYESであり同時にNOでもあると思うのです。

今回のニュースが多くの作家志望者に、チャンスと可能性を示してくれたことは間違いありません。よって、「私もジョン・ロック氏を目指すんだ」という人々は一気に増加するでしょう。作家志望者だけでなく、すでにプロとして活躍している作家の方々が、このシステムを用いて自著を発売するケースも増えてくるでしょう。
素人とプロの区別がなくなるのもネットマーケットの特徴です。
電子書籍の自費出版システムが活性化するということに関しては疑う余地がありません。その意味ではYESなのです。

でも、果たして出版界を席巻し、圧倒するまでに至るのでしょうか?
出版界の反撃は行われないのでしょうか?
出版社は、ただただゆるやかな死を受け入れていくのでしょうか?
いや決してそうではないでしょう。
そう考えると一概にYESとは言えないのです。
そのときヒントになるのは、「日本のケータイ小説」、「ハリウッドのリメイク映画」、「同人誌マーケット」、だと考えます。

では次回、出版界の反撃(はあるのか!)について予想してみたいと思います。

(つづく)

※キャプテンコラムは基本、毎週月曜日の12:00に更新予定です。前回の最後に、次回は「海、隔てながら繋ぐもの」の予定です、と告知しましたが、急遽テーマが変更になってしまいました。お許しください。で、次回もまだ「電子書籍の自費出版が100万部突破!」のつづきです。何卒ご容赦のほどを。そして今回もまた、つたない文章を最後まで読んでくださってありがとうございます。どうかあなたが、日々あたたかな気持ちで過ごされますよう。

よこさと・たかし●1965年愛知県豊川市生まれ。信州大学卒。1988年リクルート入社。94年のダ・ヴィンチ創刊からひたすらダ・ヴィンチ一筋! 2011年3月末で本誌編集長をバトンタッチし、電子部のキャプテンに。いざ、新たな航海へ!

第1回 「やさしい時代に生まれて〈その①〉」
第2回 「やさしい時代に生まれて〈その②〉/やさしい時代における電子書籍とは?」
第3回 「泡とネットとアミノメの世界の中で」
第4回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その①〉/メリットとデメリット」
第5回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その②〉/出版界の反撃」
第6回 「海、隔てながらつなぐもの」
第7回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その①〉」
第8回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その②〉」
第9回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その①〉」
第10回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その②〉」
第11回 「大きい100万部と小さい100万部」
第12回 「ぼくがクラシックバレエを習いつづけているわけ」