キャプテンコラム第17回 「マンガを読むとバカになる!と言われたことで生まれた豊かな表現たち」

キャプテンコラム

2011/11/2

 

ダ・ヴィンチ電子ナビ キャプテン:横里 隆

ぼくたち電子ナビ編集部は、
どこか学生時代の部活動のようなところがあります。
だから編集長じゃなくてキャプテンなのです。
そしてネットの海を渡る船長という意味も込めて。
みんなの航海の小さな羅針盤になれたらいいなと。
電子書籍のこと、紙の本のこと、
ふらふらと風まかせにお話ししていきます。

 

  以前、あるマンガ家さんに取材した際のこと、「マンガも小説も同じで、あらゆる表現は抑圧の反動から生まれると思う」と話してくれました。

話はつづきます。「自分たちが子供の頃は、マンガを読むとバカになるから読んではいけないと親から禁止されていた。だから隠れて読んだり、描いたりすることに、尚更よろこびを感じた。抑圧に対する反動こそが表現の力だから、豊かで自由な(抑圧のない)社会ではすぐれた表現は生まれにくいし、読者も育たない」と。

そして、「今や親も子供と一緒になってマンガを読んでいるけど、それじゃダメなんだ。抑圧がないから価値も生まれない。ぜひ親たちには子供たちがマンガを読むのを理不尽に禁止してほしい。そうすれば、その抑圧をはねのけたり、かわしたりしながら、それでもマンガを読む子供たちが、次の時代の読者として力強く育ってくれるだろうし、そんな中から優れたマンガ家が生まれてくると思うんだ」と。なるほど、と思いました。かなり逆説的なもの言いですが、的を射てもいます。

ぼくはやっぱり理不尽な規制や抑圧はいやですし、好きなものを存分に楽しめる(マンガも小説も好きなだけ読める)世の中の方がいいなあと思うのですが、確かに、抑圧にあらがうエネルギーが名作や傑作を生み出し、その受け手としての読者を育ててきたのは否めません。
かつて“プロレタリア文学”が生まれたのは、まさに抵抗運動としての表現でしたし、最近では“ゼロ年代の文学”が生まれたのも、時代の息苦しさに対する反動だったと思います。

では電子書籍時代が到来しつつある今、出版の世界ではどのような抑圧と反動が起こっているのでしょう。そこにはエネルギーが発生し、新たな表現が生まれる可能性があります。
大きな変化のときですから、厳密に見れば、さまざまな抑圧と反動が巻き起こっていることでしょう。ただ、その全体を俯瞰して語るには、ぼくの能力も文字数も足りませんので、一例を見てみたいと思います。

言わずと知れたことですが、電子出版は、従来の紙の出版で育まれてきた表現形式を拡張し、容易にするものです。ゆえに、電子書籍化の動き自体が抑圧からの解放ともとれるのですが、おもしろいところに反動としての表現物が生まれていました。
それが“zine(ジン)”です。
ネットで“zine”を引くと、次のような記事が見つかりました。

「紙から電子へと出版界の流れが加速する一方で、紙でしかできない自由さに溢れた出版物“zine(ジン)”を楽しむ人たちが増えている。zineとは? 個人もしくは少人数で自主製作する少部数の冊子。コピーをホチキスでとめた簡素なモノから本格的な印刷まで、イラスト、写真、マンガなどの作品集、旅や町歩きのレポート、日記など、その体裁も内容も多様だ。zineの語源は一説には、アメリカのSFファンによる同人誌の総称“ファンジン”といわれる。1990年代にはすでに日本でzineという言葉は使われていたが、ここ2、3年で特に活発化。10年夏に開催の“ZINE’S MATE:T OKYO ART BOOK FAIR”は、3日間で6000名の来場者を集めた」 ――以上、プレジデントロイター/トレンド発掘隊 2011年1月31日「小冊子“zine”が超アナログにして最先端なワケ」より。

上記記事にも書かれているように、“zine”自体は90年代に生まれてはいましたが、ここ数年、メディアとしての意味が大きく変わりました。かつては、おしゃれな同人誌といった存在でしたが、その役割は一時期ネットに吸収され、個人のサイトやブログに形を変えました。それが、ますますネットが進化し普及しつつある最近になって、再び活況を呈しているのです。

それも気鋭のアーティストや作家たちが参加して、同人誌とは異なる独自の盛り上がりを見せています。京都の個性派書店として有名な“恵文社”と“ガケ書房”が連携した「京都小冊子セッション」が、この10月末まで開催されていましたが、これも“zine”のイベントと言えるものです。
ネットや電子書籍が浸透すればするほど、それでは表現できないものに気づき、小さな“zine”の表現に魅力を見出していく人々。この動きもまた、電子書籍化が進む現代の、抑圧と反動のひとつと言えるでしょう。
そして次には、こうした“zine”のエネルギーを再度ネットに回収できないかという動きも生まれてきます。単なる電子自費出版ではない「BCCKS/ブックス」のような、デザインも凝っていて、電子も紙もどちらも可能な本作りができるサービスも始まっています。

抑圧と反動がくるくると入れ替わり、互いに影響を与え合いながらスピーディに進んでいくのが、今の、そしてこれからの特徴なのかもしれません。
そこから何が生まれてくるか、今までと違うものが生まれてくるのか、わくわくしながら楽しみにしているのです。

(第17回・了)
 
※今まで隔週更新だったこキャプテンコラムですが、これから月一回の更新になります。次回は12月7日(水)の12:00に更新する予定です。よろしければぜひまたお越しください。また、代わりというわけではありませんがAppbankにて電子書籍アプリのレビューを連載予定です。合わせてそちらもご覧いただければうれしいです。

今回もまた、つたない文章を最後まで読んでくださってありがとうございました。どうかあなたが、日々あたたかな気持ちで過ごされますよう。
第1回 「やさしい時代に生まれて〈その①〉」

第2回 「やさしい時代に生まれて〈その②〉/やさしい時代における電子書籍とは?」

第3回 「泡とネットとアミノメの世界の中で」

第4回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その①〉/メリットとデメリット」

第5回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その②〉/出版界の反撃」

第6回 「海、隔てながらつなぐもの」

第7回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その①〉」

第8回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その②〉」

第9回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その①〉」

第10回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その②〉」

第11回 「大きい100万部と小さい100万部」

第12回 「ぼくがクラシックバレエを習いつづけているわけ」

第13回「生まれ変わったダ・ヴィンチ電子ナビをよろしくお願いします」

第14回「見上げてごらん、夜の星を」

第15回「ひとり占めしたい!という欲望は、電子書籍でどう昇華されるのか?」

第16回 「本屋さんへ行くとトイレに行きたくなりませんか?」