【宇垣美里・愛しのショコラ】ホットチョコレートで献杯を/第10回

小説・エッセイ

公開日:2020/11/6

 半袖から長袖へと衣装が移り変わり、朝晩の鋭い冷え込みに思わず布団に潜り込む、そんな肌寒さを感じるようになったら、もうホットチョコレートの季節だ。

宇垣美里・愛しのショコラ

 手軽にココアパウダーをミルクにぐるぐる溶かすのもいいし、刻んだチョコレートを混ぜてどろりとリッチな甘さに酔いしれるもいい。特におすすめなのは、ミルクを入れたマグカップにラムレーズンチョコを3片ほどぽちゃんと沈め、電子レンジでチンして作る、お手軽ホットチョコレート。仕上げに小ぶりのマシュマロを浮かべたらさらに完璧! ちびちびと舐めるように、少しずつ口に含めば、ミルクに混ざった柔らかな甘味が骨の髄まで染み渡る。

 たまに残ってる溶けきれなかったチョコレートの塊を見つけると、当たりを引いたような気持ちになるのは何故なんだろう。ほんわりと香るアルコールも手伝って、冷え切った体がぽかぽかと温まっていくのを感じる。
 どこまでも慈愛に満ちたこの飲み物は、泥のようにくたくたに疲れ切った日でも、物を噛む元気もないほどに心折れた時でも、泣き疲れてもうぺしゃんこになった夜だって、いつでも優しく私を包みこんでくれる。

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 何度となくギリギリの私にカロリーを運んで救ってくれた魔法の飲み物。ラムレーズンチョコレートを入れるこのホットチョコレートの飲み方を教えてくれたその人は、もう二度と会うことのできない、遠い遠いところへと行ってしまった。

 お葬式の記憶はほとんどない。ずっと夢みたいで、夢だと思いたくて、ぼんやり世界を見ているうちに、全てが終わってしまった。もっと目をかっぴらいて全部覚えておくべきだったのに、後悔してももう遅い。私は、あんなにも大切で愛おしくて尊敬していた人のことすら満足に送れない、心の弱い女だ。友人たちの嗚咽とすすり泣きに囲まれ、私ひとり現実を受け入れきれないまま、泣くことすらできなかった。