文書のクラウド管理が必要な2つの理由。クラウドの利用を制約している会社は改革すべき!?/書くことについて⑤

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公開日:2020/12/14

「文章を書く」とは、「自分の考えを伝える。意見を言う。主張を述べる」ことに尽きる。長年にわたりベストセラーを多数書き上げた作家・野口悠紀雄氏が、自らの「書くことについて」を解き明かした新時代の文章読本。「日々の継続」を「驚くべき成果」に変える文章法がここに…!

書くことについて
『書くことについて』(野口悠紀雄/KADOKAWA)

6.文書をクラウドで管理することが必要

クラウドに上げる

 以上で提案している仕組みで文章を書いていくためには、必要な条件があります。

 第1は、文書がデジタル形式になっていることです。つまり、紙に鉛筆やペンで書くのではなく、PCやスマートフォンなどのデジタル機器を用いて文章を書くことです(ただし紙のノートなどにメモを書くことを否定しているわけではありません)。

 第2は、デジタルデータがクラウドに上がっていることです。

 いまでは、原稿用紙に原稿を書いている人はほとんどいないでしょう。しかし、「いまの方法で十分だから、それでよい。現在の仕組みを変えて、クラウドに上げる必要などない」と考えている人が多いでしょう。

 それに対して本書は、「考えを変えてください」と提案します。

なぜクラウド保存が必要か

 なぜデータをクラウドに上げることが必要なのでしょうか?

 第1の理由は、さまざまな文章をリンクや検索などの方法によって自由自在に管理するためには、文書がクラウドに上がっているほうが便利だからです。

 PCなどの端末に保存してあるデータを検索する機能は、不完全なものです。例えば、Windows10の検索では、検索キーワードがファイル名に入っている場合には、そのファイルと本文中の該当箇所を示します(ただし、ファイル名と検索キーワードが完全に一致していないと、引き出さないことがあります)。

 しかし、検索キーワードがファイル名に入っていないと、本文中に検索キーワードがあっても、「検索条件に一致する項目はありません」という結果が出るだけです(ただし、検索キーワードがファイル名に入っていなくても、本文に入っていれば引き出すことも、稀にあります。どのような場合にこうなるかは、よく分かりません)。

 これでは、ほとんど使い物になりません。

 クラウドにあるデータは、さまざまな方法で引き出すことができます。「全く手がかりを失った」と思うときでも、本文中のキーワードをなんとか思い出せれば、検索で見いだすことができます。魔法のようです。

 もう1つ重要なことは、クラウドのほうが安全だということです。自分のPCでは、マシンの不具合で問題が生じる場合があります。うまく保存できないときなど、ヒヤリとします。仮にマシンが故障すれば、保存してあったデータが引き出せなくなることがあります。

 これまでは、できあがった文書はできるだけ早くメールで送ってしまおうと思っていたのですが、いまはグーグルドキュメントに上げれば安心と思っています。間違って削除しても取り戻せます。

 クラウドに馴染んでいない方は、「クラウドのほうが遥かに安全」ということを実感できないのではないでしょうか? それは、クラウドに上げると、誰かに内容を読まれてしまうという錯覚があるからではないでしょうか?

 しかし、そうした人たちも、メールにはあまり抵抗がありません。メールもクラウドなのに、なぜ抵抗がないのでしょう? 「慣れ」の問題だけではないでしょうか?

 クラウドの威力を知らないために、使っていない人が多いのです。きわめて簡単な操作で効果が大きいことを強調したいと思います。実際、私自身が、ついこの間まで、グーグルドキュメントの機能の1%も使っていなかったのです。

クラウドは簡単に利用できる

 クラウド保存は、現在では、きわめて簡単にできます。

 すでにグーグルドキュメントのアプリをダウンロードしてある場合には、それを用います。あるいは、DropboxやEvernoteをダウンロードしている人は、それを利用します。OneDriveもあります。iPhoneを利用している人であれば、デフォルトで付いているメモアプリを使うことも考えられます。

 私はグーグルドキュメントの使用を強くお勧めします。無料であり簡単にダウンロードできます。これを用いるための障害は、「面倒」だという思い込みだけです。それを乗り越える意味は非常に大きいので、ぜひ転換してください。

 また、単なる惰性もあります。実際、「音声入力を人前でやるのは恥ずかしい」という人が多いのですが、それは、単に慣れていないからというだけのことです。その証拠に、携帯電話なら、多くの人が何の抵抗もなしに人前で話しています。新しいことをやるのは、どんな場合にも抵抗があるのです。

 以下、本書では、このような態勢が準備できているものとして話を進めます。

会社がクラウドの利用を制約している

 グーグルドキュメントの活用は、大量の文書管理のためにきわめて有効な手段になります。

 私は『「超」AI整理法』で、これを用いた個人用情報管理システムを提案しました。

 ところが、ある人が、「この仕組みは大変便利だが、会社の仕組みでは使うことができない。会社から支給されているスマートフォンは、ダウンロードできるアプリが決まっており、自分勝手にアプリをダウンロードするわけにはいかないから」というのです。これを聞いて、私は仰天してしまいました。

 実は、私がnoteで行なったアンケート調査でも、62.3%が、「グーグルドキュメントは使えない」と回答していました。

 日本の大企業の多くは、独自のデジタル情報システムを構築しており、すべての社内情報を社内サーバで処理しようとしています。

 右のアンケートでも、「いまだにCOBOLでできた基幹システムを、高齢のエンジニアが徹夜でメンテしている。自社の独自性に固執しすぎている」、「セキュリティポリシーに縛られて、思考停止状態」、「社外で顧客情報を取り扱うことができないため、テレワークが難しい」などの意見がありました。こうした状況は、ぜひとも改革すべきです。

クラウドは在宅勤務にも不可欠

 グーグルドキュメントは、在宅勤務のためには、きわめて有効な手段になります。

 それにもかかわらず、情報システムは自社で閉じており、グーグルドキュメントのようなクラウド情報管理を排除しています。だから、在宅勤務しようとすると、アクセスが集中してパンクしてしまうようなことが起きるのです。

 日本では、多くの企業が自分自身のネットワークに閉じこもっていて、それを外部のネットワークにつなげていません。そのため、自社の人との間ではデジタル情報交換ができても、他の会社の人との間で行なうのは不可能、ということになります。

 会社だけではありません。日本政府もそうです。政府は2020年にクラウドを導入することを決めました。「今頃クラウドか!」と驚いたのですが、それが日本の実態なのです。

「オープンイノベーション」ということが叫ばれますが、デジタル情報管理システムが自社中心で固まってしまっていては、望むべくもありません。こうした状況は、なんとかして改革する必要があります。

<第6回に続く>