明るい気持ち循環プロジェクト/『運動音痴は卒業しない』郡司りか⑭

小説・エッセイ

公開日:2021/1/1

郡司りか

 世の中の色々なものが循環していると気付いたのは、まだ入学したての大学に向かうバスの中でした。

 私が今まさに乗り込もうとしているこのバスの運転手さんに会釈をしてから乗車したとする。そしたら、運転手さんは少し気分が良いかもしれない。そしたら次に乗ってきたお客さんと目があってそこでまた互いに会釈するかもしれない。そのお客さんはカフェ店員さんで、少し気分がいいから、いつも以上に笑顔で働くかもしれない。

 そこでコーヒーを受け取りつつ笑顔が移ったお客さんは、近所のスーパーの店員さんで、私の母が親切にされているかもしれない。もしくは弟のバイト先の先輩で、いつもより丁寧に仕事を教えてもらっているかもしれない。もしくは父の部下であったら職場が明るくなるかもだし、妹の友達であったらいつも以上に楽しい時を過ごせるかもしれない。

 

 これは世界が狭すぎる例えだけれど、実際はすごく大きな輪で喜びや優しさが循環されていると思うのです。

 

 最近気がついたのが逆も然りということです。悲しみや苛立ちも同じように人と人の間を渡り歩いていると思います。例えば、昨年受けたタクシーの運転手さんからの相談がこうです。(乗れば3度に1度の確率でなぜか相談事を聞きます。笑)

 

 タクシー運ちゃん「コロナ禍になってから、妻がなぜかずっとイライラしているので、夕食がずっとスーパーの弁当なんだよ。俺も腹が立つから、一番風呂を入ったあと湯船の湯を抜くんだ。どうせ俺が入った後は入りたくないだろうからさ。」

 

 私「それ、きっと明日もスーパーの弁当ですよ。」

(やば、私までイラッとして辛辣になっちゃった。)

 

 私「とりあえず、今まではずっと夕食を作ってもらっていたのでしょうから、その感謝を伝えてみるのはどうでしょうか? 小さな花束を渡してみるのもいいですよね。」

(これは相談されたときの私の定番アンサー)

 

 運ちゃん「そんなこと絶対したくないよ。俺は怒ってるんだから、ちゃんと態度で伝えないと妻はいつまで経っても気づかないんだ。」

 

 というように、1番身近に起こる感情の循環は家庭内や職場や学校など、近しい2人の人間のあいだで生まれるのだと気がつきました。

 

 なんの話かというと、私が大学1年生からひっそりと10年近く続けてきた「明るい気持ち循環プロジェクト」を2021年も続けていきたいということです。それで、できれば協力してもらいたいのです。ちょっとだけいつもより人に優しく、丁寧に接してみるのはどうでしょうか!(私よりもずっと、そうしてる人は多いと思うけれど。)

 なかなか遮れないウイルスの循環の中で、コントロールできる循環もあるということをみんなで証明していきたいのです。

<第15回に続く>

プロフィール
1992年、大阪府生まれ。高校在学中に神奈川県立横浜立野高校に転校し、「運動音痴のための体育祭を作る」というスローガンを掲げて生徒会長選に立候補し、当選。特別支援学校教諭、メガネ店員を経て、自主映画を企画・上映するNPO法人「ハートオブミラクル」の広報・理事を務める。
写真:三浦奈々