90年代の天才ゲームディレクターが未来へワープ!? スマホ時代に再びゲーム制作開始!『リスタート!~34歳ゲームディレクターのつよくてニューゲーム~】/マンガPOP横丁(61)

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公開日:2021/5/28

リスタート!~34歳ゲームディレクターのつよくてニューゲーム~
『リスタート!~34歳ゲームディレクターのつよくてニューゲーム~』(坂木原レム/講談社)

 1990年代半ば、日本のゲーム業界は2つのゲーム機の発売を機に、いわゆる次世代ゲーム機戦争が勃発した。これまでほぼ一強だった“赤と白の8bit機”と“グレーのスーパーな16bit機”でおなじみのゲームメーカーと、そのライバルで英語の土星とネーミングしたゲーム機を発売したゲームメーカー、そして現在5代目を発売した、“遊びで使うコンピュータ”という名のゲーム機を発売した日本の家電メーカーによる、三つ巴の戦いである。

 そんな激動の時代を経て、現在では据え置き型ゲーム機はより高性能化。さらに、今までに無かった新勢力がゲーム業界を席巻する。そう、スマホゲームだ。スマホの存在もそうだが、今では当たり前の“課金”というスタイルが主流になるとは誰も予想できていなかっただろう。90年代から現代に突然タイムスリップし、時代のギャップと戦いながらゲーム制作に挑む男の物語が、今回ご紹介する『リスタート!~34歳ゲームディレクターのつよくてニューゲーム~』(坂木原レム/講談社)だ。主人公は伝説のゲームクリエイター・宮友雄一。

 秋葉原にある中堅ゲームメーカー・クラリスソフトに勤務する宮友雄一は、数々のアイデアで人気ゲームを生み出した天才ディレクター。彼が参加している大人気シリーズの最新作『ドラゴンレジェンド4(通称ドラレジェ)』の完成が間近に迫っていた1995年のある日。外で夕食を終えた宮友は会社へ戻る道中、謎の老人に出会う。その老人は宮友に突然「ドラレジェ4はもう作れない」と宣告し、宮友に課題を出す。詳しい話を聞こうと宮友が老人を追おうとしたその時、何かを落として去っていった。それはなんと、まだ完成してないドラレジェのロムカセットだった。宮友がそれに触れた瞬間、衝撃とともに彼の不思議な運命が動きはじめる。

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 しばらく気を失っていた宮友は目を覚まし、改めて秋葉原の街を見渡すと違和感を覚える。まず目撃したのは、次世代ゲーム機としてつい先日発売されたばかりのあの商品名の横に「5」と入った販促ポスターが。さらにゲームショップへ行くと、買い物客の会話から衝撃の事実を知る。

「ドラレジェ4が出来上がる直前に、ディレクターが謎の失踪をした」

 動揺する宮友。店内を見渡すと、売り場に貼られた「2020年新作ゲーム」というPOPに、彼の中では未発売のドラレジェ4の中古ソフト、そしてドラレジェシリーズ記念本が売られていた。彼は25年後の日本にタイムスリップしていたのだった!

 さらに会社へ行ってみると、なんと大きなビルを構える巨大企業に変化し、プログラマーであり、現在この会社の社長となった25年後の同僚・岩間との再会を果たす。しかし岩間は失踪した宮友であることを信じなかった。この状況に宮友が取った行動は……。

 タイムスリップさせた謎の老人が与えた課題とは何か。そして宮友の空白の25年のキャリアと信頼は取り戻せるのか。天才ディレクターによるゲーム制作が時代をワープして再始動!

 物語のメインである宮友と岩間の名前の由来。あのゲームメーカーのレジェンドから来てますよね? まずこれだけではりま的には胸アツ。さて、いきなり25年後の世界に飛ばされた宮友は、めちゃくちゃ進化したゲーム事情をどう攻略していくのか。現役バリバリの宮友が、時代と世代のギャップと戦いながら制作に熱を入れていく。宮友と一緒にゲームを作っていくメンバーの中には、まさに宮友に憧れて業界に入った人もいるが、当然本人であるとは気づかない。あー「目の前にいる人があなたの憧れの人です」って言いたくなる! 宮友イズムを継承する若手クリエイターのドラマや、ドラレジェを引き継いだクリエイターとの顔合わせなど宮友に絡んでくるさまざまな展開がまた熱い。

 これはただのゲーム制作物語ではない。一度地位を失いかけた男の復活劇は、職種やジャンルが違っていても同じような境遇に置かれた人への応援歌になる。そんな作品だ。このままならない世の中、本作でぜひ心と情熱のステータスを上げていただきたい。

マンガPOP横丁

文・手書きPOP=はりまりょう